126 / 155
08ー11
さらりと銀色の髪が落ちてきて指に絡める。やっぱり手触りが良くてなんだかいい匂いのするそれに俺の尻尾は自然と揺れ出した。
「…俺は自分の色が嫌いだ」
小さな声で紡がれた言葉に俺は苦笑する。
コイツのされた事を考えるとその言葉が出てきても何も不思議ではないから。
「この色のせいで、お前まで」
「違う違う。ホントお前といいニイといいリドさんといい、なんでそう自分のせいだって思いたがるかなー」
今にも泣き出しそうなほど弱く掠れた声で告げられかけた言葉を食い気味に否定すれば俺は勢いを着けてヴァイスに思い切り体重を掛けた。少しくらいバランスを崩しても良いだろうに微動だにしなかった事に面白くないなと眉を寄せつつ腕を組んだ。
「確かにさあ、お前が普通の色だったらこんな事起きなかったかもしれねえけど先ずお前を撃とうとした奴らが一番悪いんだよ。むしろソイツら以外悪い奴いねえ」
それでもまだどこか納得していないような、釈然としない空気を出すソイツに息を吐く。
「…ま、時間かけて答え出せば良いんじゃね。少なくとも、俺はお前が悪いだなんて思ってないよ」
ぱち、と小さく木が爆ぜる。
燃え尽きそうになっているそれに薪をくべなくてはと腕の中なら出ようとするがそれが出来なくて顔を上にあげるとそこには何かに耐えるように唇を引き結んだソイツがいて目を瞬かせる。
「…ヴァイス?」
「……どうして許せる」
抱きしめる腕に力が篭った。
「…お前は、どうして」
「許すなんて一言も言ってねえよ、俺」
ぐ、とアイツの喉が唸る。戸惑いと、悲しみの匂いが漂う中俺は口を開く。
「だけど、許さないとも言ってない。あ、でもお前の母親と撃った馬鹿は一生許さねえ」
なんだか矛盾しているような言葉に自分でおかしくなって笑ってしまう。そんな俺の様子にヴァイスはますます困惑の匂いを強くして尻尾を揺らしていた。
「どっちだ」
「お前の母親は許さねえ。だけどお前のことはこの先許せる時が来るかもなぁって感じ」
「……、」
「あ、お前今自分はもう許されてたんじゃ、って思ったろ」
俺の言葉に図星を突かれたのか抱きしめる腕の力が緩み、その隙をついて向かい合うように体勢を変えた。
するとそこには案の定気まずそうに目線を逸らすソイツが居て俺は呆れたように息を吐くものの、イラつくことも怒ることもしなかった。
「簡単には許せねえよ。お前だってそれくらいの自覚はあるだろ?」
「…ああ」
「ならよし」
手を伸ばして頬に触れるとヴァイスが手に擦り寄ってくる。
ゴロ、と喉が鳴るのに笑みを浮かべていれば暖炉から木の爆ぜる音が消えて辺りが暗くなった。
曇ったガラスから透ける月明かりしかない部屋で、互いの呼吸音しか聞こえないほど近い距離で互いを見つめる。
歪な関係だと、そう思う。
けれど俺たちは互いに離れられないのを理解していた。互いしかいないのだということも、これから先一生をコイツと共に在るのだということも、本能で理解していた。
ただ素直に手を取れないのは、互いに躊躇するのは、きっと俺たちが純粋な獣ではなくヒトとしての思考や思いがあるからだ。
互いしかいないと、そう思うまで俺たちには時間が掛かりすぎた。
「…ソロ」
紡がれる愛の言葉に本能は歓喜するのに、体は熱を持って全身で嬉しいと訴えるのに、俺の意思がそこに蓋をする。
嬉しくないわけがない、惹かれないはずがないのに俺はどうしても手を取れない。
優しく触れ合う唇の熱が痛くて切なくてどうしようもなくて泣きそうになる。
隙間がないほどに互いの体を抱き締めて、足りないものを埋めるように唇を合わせて舌を絡め合う。
少し荒くなった息遣いと衣擦れの音しかしない。唇が離れてヴァイスの顔が俺の首元に埋まって鎖骨あたりに小さな痛みが走る。
いつの間にか窓の曇りは消えて、そこから月が見えた。
神様、
いもしない神にこうやって祈るのは何度目だろう。
吐く息が震えたのは、与えられる熱でそうなったのか、それとも俺が泣きそうだからなのか自分でもわからない。
ただ、どうしようもなく惨めだった。
どうして俺は、
紫色が、優しく細められる。
愛おしいという匂いも音も全く隠そうとしないソイツに胸が締め付けられる。
出来損ないなんだよ。
ともだちにシェアしよう!