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09ー1

随分と寒さも厳しくなった頃、家には俺とジイさんしかいなかった。 子供たちはこの寒い中友達と遊んで、そのままあと数日と迫った冬の祭りの準備を手伝いに行くらしくて、子供というのはやっぱり元気だなぁと溢していればお前だって十分子供だと暖炉の前で毛布に包まり紅茶を飲んでいるジイさんに言われて苦笑する。 隣り合わせで暖炉に向かう姿はなんだか間抜けだが、互いに寒がりなのだからしょうがない。 「ソロ、」 呼ばれてそちらに顔を向ければそこにはなんだか優しい顔をしたジイさんがいて、反対に俺は眉を寄せた。 「なんだよ」 「いや、お前は最近わかりやすくなったと思ってな」 嗄れた声で何の気なしに紡がれた言葉に心が少し重たくなった。それは不快な重たさではなくて、目を逸らすことの出来ない、向き合う限り絶対に俺について来る重さだから考えを放棄するなんてことも出来なくて俺は目を伏せた。 「…悩みは深そうだな」 「、俺さ、」 「ん?」 あの日、この家でパーティをしたあの日の夜、俺は丁度この場所でアイツと熱を分け合った。 たまらなく幸せな日だった。それと同時に、とてつもなく馬鹿な願いを神にした日だった。 「……こども、欲しいって、思ったんだ」 毛布の中、薄くて未だに少しアバラに触れてしまう腹を撫でた。 ガリガリではなくなったかもしれないが、それでも到底俺の思うΩの体ではなくて苦笑が漏れる。 「…、俺、ヴァイスのこと、好きなんだと思う。…っ、だけど、俺はΩの中でも本当に、マジで欠陥品だからさ、」 隣で絶句するのがわかった。ここで変に取り繕ったり俺を慰めようとせず真っ直ぐに受け取ってくれるからこその反応が今の俺にとっては救いだった。 だから、俺の事を自分のことの様に感じてくれるジイさんが横に居てくれるから俺は少しだけ笑うことができた。 「わかってんだよ、アイツはこんなこと気にしてないって。わかってるんだ」 膝を緩く抱えてその間に顔を埋める。 ぱち、と木が爆ぜる音と外から微かに聞こえる街のざわめきがいつもなら心地良いと思うのに、今はとても辛く感じた。 「……俺が選ぶまで待つって、言ってくれたんだ」 あの日も、帰り際にアイツは焦らなくて良いと、そう伝えてくれた。 「…あの我儘放題のクソ野郎が、こんな、スラム育ちの欠陥品のこと好きだって、俺が決めて良いってそう言ってくれてるのに」 俺のために、変わろうとしてくれているのに。 「、…あんなに、Ωの自分が嫌いだったのにな」 発情期(ヒート)が来ないことをあれだけ楽だと捉えていたのに、とんだ笑い種だ。 声は次第に小さく弱くなり震えてしまう。 そんな俺をそっと抱き寄せて背を撫でる手の不器用な優しが、やっぱり痛くてしょうがなかった。

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