132 / 155

09ー5

あれだけ毎日降っていて雪が止み、代わりに太陽が顔を覗かせて久しぶりの青空が広がった。 相変わらず気温は低く、吐く息は白く染まって何かをしていなければ凍えてしまいそうな寒さなのに街は驚く程活気付いていた。 「あったかいスープがあるよー!」 「こっちには骨付き肉だ!早いもん勝ちだよー!」 「雪を象ったアクセサリーを売ってるんです。よかったらどうですかー?」 どこにいても聞こえる客引きの声や、白と雪を象ったオブジェの数々。日の光を反射して宝石のように輝くそれらに俺は圧倒されて目を丸くしていた。 「ソロ、はぐれちゃだめだからね!」 「はぐれないように手繋いどいてやるからな」 両の手に雪の妖精かと見紛う程に白くてふわふわの服を着た子供たち、あまりの可愛さに喉から変な音がした。 その妖精たちが興奮を隠そうともせずに手をきゅっと握りあちこちに視線を走らせる姿は可愛い以外の何者でもない。 これだけで既に祭りに来てよかったと思い幸せを噛み締めていたが前方から呆れたような、それでいて面白がっているような匂いがして其方を見るとにんまりと口角を上げているトレイルがいた。 「ちょっとちょっとー、まだ満足しないでよー?本当ソロ君ってイチちゃんとニイ君のこと好きだよねぇ」 「私たちとソロはそーしそーあいだもん。ねー?」 「、お、おう」 何故か俺ではなくニイに同意を求めたイチに首を傾げるがきゅっとニイの手を握る強さが増して顔を赤くし小さな声で返事をした。 「…ねえソロ君、そのうちの子可愛いだろって顔やめてくれない?十分わかってるから」 やはり呆れたような顔で訴えて来る様子に肩を竦め笑いながら頷くともう一度賑わう街に目線を移した。 とても豊かで、幸せの匂いがするその空間に自然と目が細くなり寒さも気にならない程の賑わいに心も軽くなる。 「…すげえ祭りだな」 「でしょー?さあさあ子供たち好きなの食べていいからねー」 「本当っ?じゃあわたし、あの果物の飴食べたい!」 「オレあの骨付き肉っ」 「あー!こらっ、ソロ君と手を離さないの!迷っちゃうよーー!」 先程までの意気込みどこへやら、見事に食への好奇心が勝ったらしくあっさりと俺の手を離して子供たちは屋台へと真っ直ぐに走っていった。 それにギョッとするトレイルが面白くて笑っていれば笑い事じゃないでしょと怒られてしまった。それに生返事で答えて子供たちが走っていった方向に足を進める。 驚く程の賑わいと人混みの中普通の獣人より感覚が優れていると自負していた俺は油断していた。 これだけの雑踏の中では嗅覚も聴覚も殆ど意味を為さないこと、そして何よりこの祭りに初めて来てその賑わいを知らなかったこと。 様々な要素が加わり、俺はそう、見事に。 「……はぐれた…!!」 迷子になっていた。

ともだちにシェアしよう!