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09ー9

時折街にふらりと現れる怪しい老婆の占い師、と言うのは虎の国では有名な話らしかった。その的中率や過去の出来事を言い当てる姿、そして何よりあの怪しさしか感じない風体も噂のものと合致していて俺は息を吐きながら頷いた。 やけに豪華な部屋の中、祭りに参加するための王族たちの控え室に俺はいた。やはりどうしたって寒くて俺は暖炉の前に陣取りあぐらをかいた膝の上に肘をついて揺れる炎を見つめながら慣れない匂いのする馴染みのない部屋の中で深い深いため息を吐く。 外からは未だに賑やかな音が聞こえる。お祭り騒ぎという言葉はまさにこの日のためにあったのだなと思えるほどの賑わいっぷりだが、俺はそこに混ざる事は今は出来そうになかった。 粉雪の様な小さな粒が空から舞う様に落ちていく様を窓から眺めて先ほど会う事ができた子供たちの様子を思い出して少しだけ口角があがった。 「…また、来年か」 俺が見つかったことで案の定大泣きしながら突進してきた二人を宥めながらトレイルからはしっかりと小言を貰った。本来ならそのまままた四人で祭りを楽しむ予定だったが俺の声を聞いたのかニイが首を振ったのだ。「ソロはヴァイスと話したほうがいいと思う」真っ直ぐな瞳で俺を射抜く様に見てきたその視線の強さに心臓を射抜かれた気がして言葉に詰まった。 イチもトレイルもなんとなくニイの異能について理解しているらしくその言葉や俺とヴァイスの顔を見て仕方がないとばかりに頷き、一からは小指を絡めとられて来年こそしっかり楽しむという約束を取り付けられてしまった。 明日を生きることすら困難だったのに、俺は簡単にその言葉に頷いて約束を交わしてしまった。明日を考える余裕がある、否明日どころじゃない、俺は今未来を考える余裕がある。 だからこんなにも様々な感情が渦巻くのだ。 未来を思って悩める日が来るなんて思わなかった。 (逃げ出せば逃げ出した未来があるし、向き合えばそういう未来がある) 獅子の国を思い出させる様な乾いた声で紡がれた言葉が何度も頭の中をぐるぐると回る。 その言葉の意味するところを俺はもうとっくにわかっていた。どうするべきなのかも、俺にはもうわかっているはずなのに。 ゆらゆらと揺れる炎と木が爆ぜる音、この音を聞くだけで俺はもうヴァイスを思い出す。 未来を考えた事がなかっただなんて言わない。生きるために未来を思い、理想を描いて小さな夢だって持っていた。けれどそれは生きるための気休めでしかなかった、夢物語だったんだ。 けれど今こうして俺には夢物語でもなんでもない未来があって、俺の選択一つでヴァイスがどんな顔をするのかも、俺にはもうわかってしまう。 ああ、いつから俺はこんなにもアイツの悲しむ顔を見たくないと願う様になったのだろう。 久しぶりに恐怖を感じたのは、体が震えたのは、俺が弱いからだ。 嫌われたくないと、面倒くさいと思われたくないと、そう思ってしまった。 「、クソ、女々しい…」 苦々しく呟いた言葉が部屋に虚しく響く。ぐるぐると気持ち悪いほど同じ感情と質問が腹の中を回る。答えなんて出ない、馬鹿らしい問いかけだった。 ガチャ、とドアが開く音がした。それにビクッと方を跳ねさせて恐る恐る顔をドアの方にむけて俺は一気に体から力を抜いた。そして目を丸くして首を傾げる。 「…アル」 「あは、久しぶりだねソロ」 絢爛豪華な衣装を纏い長い髪を片側で緩く編み込み、頭上に王冠を乗せて相変わらずの感情が読めない笑みを浮かべたアルヴァロの姿に俺は目を瞬かせるのだった。

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