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09ー10
祭り仕様だとは言っても記憶にあるよりも随分と豪華で、そしてなんだか威厳すら感じる姿に俺は感嘆の息を吐いた。
「…すげえ、王様っぽい」
「ぽい、じゃなくて王様なんだけどね」
「そっかそっか、えっと、こういう時なんて言えばいい?おめでとうで良いわけ?」
「ふふ、うん。それでいいよ。それにしてもソロは相変わらずだね。あんまりにも変わらないから私もまだ戴冠してなかったかなって思っちゃった」
愉快そうに笑うアルヴァロの姿に俺は目を瞬かせた。
「隣、良い?」
「良いけど、お前そんな高そうな服で床にすわ、床座んなって馬鹿かよっ!」
「あはは、私に馬鹿だなんていうのもソロくらいじゃないかなぁ」
暖炉の前にあぐらをかく俺の後ろにはそれはそれは高級そうなソファーがあったりする、だからてっきりアルヴァロは当然の如くそっちに行くと思ったのだが、あろう事か売れば向こう二年は飯に困らないだろうという服を着たまま床に座る俺の横に腰を下ろしてきた。
仰天して目を見開き強い声で指摘する俺を面白いものを見る様に目を細め笑い飛ばすその姿に調子が狂うな、と息を吐いて俺も早々に諦めて暖炉に目線を戻した。
「火は見ていて飽きないね。燻り、燃え盛って消えていく、その全てが綺麗だって思う」
「そっか。俺は火は暖取れていろんなもん焼けて便利だなーくらいしか思わねえや」
ぱち、ぱち、と燃える音が聞こえる中アルヴァロの目線が俺の手に向けられるのがわかった。そこにはもうほとんど分からないがそれでももう一生消えないだろうと言われた噛み跡が残っている。
「…それ、残るんだ」
「まあ食いちぎられそうだったしな、残るだろ」
「そっか」
普通のヤツならきっとここで謝るのだろうがアルヴァロはそんなことはしない。現に今だってこいつからはなんの匂いも音もしない。悪い事をしただなんて意識がまるでないからもういっその事清々しくて俺は笑ってしまう。
「ソロは私が怖くないの?」
「お前がめちゃくちゃに殺気出してる時は怖いよ。けどそれ以外はどうでもいい」
「…どうでもいい」
「お前だってそうだろ」
その言葉に目が細められる。
一気に捕食者の顔になるアルヴァロに心臓がぎゅっと締め上げられた様な感覚になって息が詰まる。わざと大きく呼吸をして半目でソイツを見る。
「それ、その感じは怖えよ。自分が虎の王様だって事自覚しろっつの」
「…どうしてソロはわかるんだ」
「は?」
「私ですら気付かなかった感情に君は気付いた。それが何故なのか、今もわからないんだ」
ぽそりと溢すように告げられた言葉に俺は目線を下げる。
俺やニイのような異能はどうやらΩに多く見られるようで、αであるコイツやヴァイスには理解できない事なのだろうと思う。口にしようかどうか悩んだが俺は目を伏せて首を振った。
「お前、スラムのガキと似てる。悪ガキの部類だけど」
「…え、」
「好きな子をいじめるのなんて悪ガキなら誰でも通る道だろ。ただアルには権力っていう誰も逆らえねえ武器があったから誰も怒ってくんなくてこじれたんじゃね」
肩を竦めていたずらっ子の様に笑って見せればアルヴァロの目が面白いくらいに丸くなった。初めて見る表情や困惑の匂いを漂わせる様子に俺はケラケラと笑う。
「間抜け面」
「不敬罪になるよ」
「今更だろ。それに俺育ち悪から畏れって言われたって無理」
互いに顔を見合わせて一緒のタイミングで笑い出す。それから少しして外から大きな歓声が聞こえた。「ヴァイス様」「殿下」そう聞こえてきて、その声があまりにも賑やかでそして優しさに溢れていて知らず知らずのうちに頬が緩む。
「…ヴァイスは民にはとても慕われているんだよ」
「知ってる」
「、ソロ」
窓からは薄く曇った空の景色しか見えないがそれでも聞こえてくる温かい声に俺の胸まで何だか温かくなる。歓声に耳を傾けていれば静かな声で俺を呼ぶ声が聞こえてそちらを向く。
そこにいたのはアルヴァロだが、目を伏せて何かを伝えようとしてそれでもなかなか言葉にできないそんな様子はヴァイスによく似ていた。
「…弟を救ってくれて、ありがとう」
こぼれた言葉にはやはり複雑な感情の匂いがした。
けれど、それよりもずっと嬉しかった。
「……どうしたしまして」
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