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09ー11
聞けばヴァイスは幼い頃から不思議と人を惹きつけるヤツだったらしい。
何をせずとも人が集まり、神に愛された様な美貌は歳を重ねるごとに磨かれて行った。本来ならばアイツは神童、神の寵児として祭り上げられ崇められる存在らしい。
だがそうならなかったのはコイツらの母親が外見の美しさにこの上なく重きを置く耽美主義だったからだ。それならば美しいとされるヴァイスすら愛せるはずだが、コイツらの母親は美しさの頂点が自分でなければ許せなかったらしい。
だから、そんな理由でヴァイスはありもしない噂を流された。
そしてアイツはその噂が真実だと思わせるほど神聖で怖いくらいに綺麗だった。
幼い、それこそ赤子だったアイツにそれを覆せるほどの力があるわけもなくアイツは物心ついた頃にはすでに周りには下らない噂を鵜呑みにした敵しかいなかったと聞かされて、俺はそれに頷くことしか出来なかった。
「……ソロ、君に聞きたいことがもう一つあるんだ」
アルヴァロの口から静かに問いかけられた言葉にずくりと心臓が痛んだ気がした。
「何故まだ噛ませていないの?」
予想していた通りの問いかけにそれでも肩は震えて思わず剥き出しの頸に手をやる。噛み跡どころかプロテクターもつけていないそこにアルヴァロの目線が向けられた。
「…運命って、そんなに強制力があるわけじゃないのか」
「待ってくれてるんだ」
顎に手をやって低い声で呟いたその声音の仄暗さにハッとして食いつく様に言葉を返すとアルヴァロの目がスゥッと細められた。
その目がまた鋭い光を宿したことに俺の胸の奥がざわりと震える。
「俺が決めるのを待ってくれてる」
「決める?何を」
「、番になるのを」
「……へえ」
にこりと、あの女と同じ様な笑みを浮かべるアルヴァロに背筋が粟立つ。
なんの感情も読めない、だがそれでいて恐怖だけはしっかりと与えてくる。人を食ったような笑みとは、多分こういう顔を言うのだ。
「迷っている時点で答えはもう出ているんじゃないの?」
どくりと、心臓が跳ねる。
「出来ない理由はいくらでも見つけられる。それを盾に先延ばしにしているんじゃないのかな?」
「ちが、」
「何が違うの。現にソロは未だに噛ませるどころかヴァイスの気持ちすら受け入れていないじゃないか」
「…、」
図星を突かれて目線が床に落ちる。
アルヴァロの言葉が一々体に刺さる様で、痛くて苦しくて仕方がない。けれどそう思う時点でそれが本当なのだということを自覚させられる様で呼吸が浅くなる。
「――逃してあげようか?」
悪魔の様な囁きがすぐ耳元で聞こえた。
「大丈夫、ヴァイスは君を責めない。それにソロも心配しなくていい。もうヴァイスは城でも一人じゃない。あれはもう呪いの第二王子ではないんだ」
「ソロだってさっきの歓声を聞いただろう?」甘く蝕む毒の様に囁かれる言葉に唇を噛む。
「君がいなくても、ヴァイスはもう大丈夫だよ」
どこまでも甘く囁かれる言葉に、泣きそうになった。
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