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10ー2
(寒くなるから熱に気をつけるんだよ)
砂漠の砂の様に乾いた声が頭の中で聞こえた気がして後ろを振り返る。当然そこに誰かがいる筈もなくて、俺は息を吐いた。
何故だか最近無性にあの言葉が気になるな、と眉を顰める。
確かに最近気怠くはあるし、何かしらしんどい。けれど日常生活に支障はないし、むしろ好調と言ってもいい。
頭痛もしなければ喉も痛くないし、耳鳴りもしない。それなのに怠い、という不思議な状態になっていた。
「ソロー、この本持っていく?」
自分の体調に頭を悩ませていた時少し離れた所から声をかけられてハッとする。
今は引っ越しに向けた準備中で、今日はその為に荷物の整理をしている。正直今まで整理するほどの荷物を持った事がなかった為初めての作業に思った以上に時間が掛かっていた。
ヴァイスは焦らなくて良いと言っていたが尻尾がたしたしと床を撫でていたのを見る限り我慢してくれているようなので少し急いでやりたい気もする。
「あー、いや、その本はニイにやるよ」
「え、でもオレまだこんな難しい本読めない」
「読めるようになったら読めばいいよ、ただそれすげえ身体痒くなるからな」
「!?なんで」
ニイの手に持たれているのはリドさんが書いたジイさんに向けての本だ。内容をざっくり言ってしまえばラブレターである。数百ページに渡る。
ただこの本、虎の国では有り得ない程の知名度を誇っておりこれを題材にした歌劇まであると聞いた時俺は腹を抱えて爆笑したしジイさんはこの世の終わりみたいな顔をして頭を抱えていた。
「大人になりゃ分かるよ」
くしゃりとふわふわの髪を撫でればニイが擽ったそうに目を細める。
「そういえばお前らの準備は?」
俺の言葉にニイの耳がぴくんと震えた。
「じゅんちょー。オレは終わったけどイチがもうちょっとかかるかも」
「そっか」
イチとニイも俺が引っ越すのをきっかけにリドさんの家に越す事になった。そこでジイさん達と4人で暮らすそうだ。
それを聞いた時とてつもなく安心した。
「学校とかはそのままで良いってリドが言ってた」
「こら、せめてさんは付けろ」
「リドがそれで良いって言った」
デレデレとしながら子供たちを甘やかしまくるリドさんが容易に想像出来て苦笑する。けれどこうやって徐々に変化していく事に一抹の寂しさと、それと同じくらいの安堵を感じている。
「…ソロ、ちゃんと三日に一回は来いよ。この前イチと約束してたの、オレ知ってるんだからな」
少し拗ねたように唇を突き出して呟く姿に何度目か分からない胸の高鳴りを覚えながら抱き付けば頭をぐりぐりと撫で回す。
「頼まれなくても行くからなぁー」
「わ、ちょ、撫ですぎ、撫ですぎだってばハゲる!」
2人して大笑いしながら戯れている。こういう事をしているから全く準備が進まないとわかっているが、それでも可愛いから止められない。
「…ソロ、やっぱり身体熱い。熱本当にないのか?」
不意に抱き締めていたニイから声が上がり俺は腕を緩める。自分の額を触っても全く熱くはない。
「…そんなに熱いか?」
「熱い」
顔を合わせて2人して首を傾げる。
なんでだろうなぁ、そんな言葉まで重なって俺とニイはまた笑った。
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