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体がおかしい、そう自覚すれば異変は一気に俺の体を駆け回り出した。 聞こえる音が自分の呼吸音しかない、鼻も全く効かないし考えた側から思考が溶けていく。自分では何もできないほどの倦怠感が体を襲い、立つことすら出来なくなってしまった。 全身から火が出そうな程に熱くてそして服が煩わしくて仕方がない、それなのに指先一つ満足に動かせないもどかしさに苛立ちよりも不安が募る。 声も満足に出せない、体が燃える様に暑い、死を覚えるほどに訳のわからない恐怖が体を支配して目からは洪水みたいに涙が溢れて止まらなかった。 いやだ、怖い、いやだと同じ言葉が何度も頭の中をループしていた時ガチャ、とやけに鮮明にドアが開く音が聞こえた。 「…っ、」 家のドアが開いた音だ、走る音が聞こえる、部屋に近づいてきている。 自分の呼吸音しか聞こえなかったのに、今はそれが嘘だったかの様にその気配に全神経が集中しているのが分かった。 早く、早くとはやる気持ちが抑えられなくて床を這う様にドアに近づこうとした時、ドアが蹴破られたのかと思うくらいの勢いで開いた。 途端に感じた気配と匂いに俺の思考は一気に壊れた。 「、ヴァイス、ヴァイス…っ」 壊れるんじゃないかと思うくらいの力で抱き竦められて、もっと近く濃くなった匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。そうすればする程に腹の奥がもっと熱くなるのを感じて喉からは自分のものとは思えないほどのか細くて高い声が上がった。 「ぅ、あ…っ」 「っ、ソロ、」 「ンンぅ…ッ!」 名前を呼ばれただけで体が跳ねる。 「ヴァイス、たすけて、ヴァイス」 体が熱くて苦しくてしょうがない。 こんなの知らない。 ふわりと体が浮いてベッドに寝かせられたのは分かった。 けれど距離が遠くて、それが嫌で思い切り腕を引いて同じベッドに横になる。 俺とヴァイスの匂いが混ざって、心地良い。 ヴァイスの低い声が聞こえる。 何を言っているかはわからないけれど、何かを問いかけた気がする。 そんなことどうでもよくて、早くもっとくっつきたくて俺から唇を塞いでやれば今度はしっかりとのヴァイスの喉が低く鳴るのが分かった。 それがあまりに面白くて、愛しくて俺は笑う。 頭の中にあるのは早く食われたい、それだけで。 「食っていーよ」 ぶわりと、堪らない匂いが部屋いっぱいに広がる。 もう一度、今度はヴァイスから唇が塞がれてからはもう記憶がない。 ただ、酷く幸せだったのだけは覚えている。

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