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第3話・それでも大好きなあの人。(9)

 それも、たまたま居合わせただけの現場で、だ。  ううん。たまたまでもいい。大好きな人に会えれば嬉しい。  だけど今はすごく辛い。  嫌われていると知っているからこそ、その優しさが苦しい。  胸が、痛いよ。  思わぬ先輩の登場で一度は止まった涙が、また目からあふれ出した。 「恋人だあっ? はっ、見え透いた嘘をつくなっ。お前もその子を狙っていたクチだろ?」  そうだよ。  嘘なんてつかなくて良い。  ぼくは大好きな先輩に不快な思いをさせちゃったから、罰を受けているだけ。  だから、先輩はぼくを助ける必要もないんだ。  いいんだ。こうなっても仕方がないことをしちゃったから――。  もう放っておいてほしい。  それも、たまたま居合わせただけの現場で、だ。  ううん。たまたまでもいい。大好きな人に会えれば嬉しい。  だけど今はすごく辛い。  嫌われていると知っているからこそ、その優しさが苦しい。 「いやっ、離してっ!!」

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