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第3話

◇  歓楽地の果てにある最大の娼館「彩虹花(ツァイフォンファ)」略して花館はどの部屋も球状のように突起したガラス窓によって客の意向次第で外からも床夫の姿を観賞することができた。ミカモトは外からレグナが抱かれる様を観ていた。客はカーテンを閉めず、彼は窓辺に両手をついて男根を受け入れ、冷淡な印象のある秀麗な顔が火照っていた。足首には鎖が巻かれ、部屋の隅に打ち付けられた杭に繋がれている。これはほとんどの床夫がそうだったがレグナはさらに手首にも鎖が巻かれていた。さらに逃亡しないようにこの建物の周りは堀があった。逃亡の末手足を撃たれ、結局は副支配人のミモリ・ドモンに頭を撃ち抜かれた床夫(しょうふ)もいた。死なない程度という規定を守りその者を撃ったのはミカモトだった。不可逆的な傷を負わせ、ドモンはその者に動けない種壺になるか死かを迫った。この店はそういう場所だった。死を選んだ床夫は近くの投げ込み聖寺院堂に連れて行かれ弔われる。何人かの遺体をミカモトも運んでいったことがある。自決した者、病死した者、客に絞殺された者、様々だった。ラグナは隣街の大聖寺院殿で弔った。扱いや様式の違いにミカモトは初めて過去にみてきた床夫の死というものを認識した。聖牌となって帰宅した恋人と同じ姿がガラス1枚を隔てた奥にある。客に背後から穿たれ、窓に掌が潰される。ミカモトはそこに手を合わせた。彼の手のほうが大きかった。肌を汗で照らせるレグナの表情がわずかに和らいだ。客は手を伸ばし、カーテンが閉まった。ミカモトは娼館の中に入って入り組んだ通路からミモリ・ドモンの接近がないか監視していた。レグナとは支配人の私室に呼ばれる前に会うことが出来た。彼はミカモトの顔を見るなり静かな笑みをみせる。ラグナによく似てあまり話さない。ミカモトも話すことを好まず、互いに無言だった。手を繋いだり、抱擁したり、満足にはまだ遠いが差し迫る時間の限りそうしていた。襲撃者という彼の立場上手枷足枷が外れることはなく私室へ届けられる。透けた天蓋カーテンの奥でミモリの小柄ながらも球体のようなある種の巨体に犯されるレグナをミカモトは外の音にも警戒しながら眺めていた。レグナはラグナではない。そのことは分かっていた。そのために彼女は自宅でもレグナを抱くことはなかった。ただふとラグナと重なって、手を握ったり、髪や頬を撫でたり、その肩を抱き寄せたりしてしまうことがある。食器の持ち方、歩き方、喋り方、寝相、仕草、表情、声、体温、匂い、どれをとってもラグナだった。ラグナとして見るなと言われるほうが難題なくらいで、ミカモトは努めて別人として接したがふとした隙に彼女は恋人と違う人間とを混同した。透過性のあるカーテンの奥でミカモトのほうを向く姿までもがラグナだった。 「御神本!貴様(ぽまえ)は何を仕込んでおるんだ。ぽまえに惚れさせてどうする。蘭紅(ラグナ)、此奴はお前をダメにするぞぃ」  猫撫で声でミモリは言った。そして巨尻が前後に大きく揺れた。レグナは声を漏らす。 「こっちに来んか、御神本!今日はあのバカ息子は来とらんでな!楽にするがよいよ!がはは!」  ミカモトは安堵を覚えてとにかく大きなベッドへ近付いた。ミカモトの暮らすアパートの半分ほどもある。 「御神本。手を握っていろ。するとこの艶肉(おめこ)がよく締まりそうだ」  ミカモトは言われたとおりにシーツの上に転がったレグナの手を握った。鎖も手枷も重く、腕はそこに固定されているかのようだった。レグナもミカモトの手を弱いながらも握り返した。薄い二重目蓋がわずかに伸び、冷めた瞳が円やかになる。その双眸を見下ろすと彼は焦りをみせ、噛んでいた唇が濡れて開いた。 「あ…っ、く、ぅぅ…!」  悩ましげに眉が寄り、腰が揺れる。 「なんといい声で鳴く小鳥じゃ!良いぞ、良いぞ!御神本!」  レグナはミカモトを見上げ、彼女もその視線を離さなかった。そこに目交(まなか)いの分だけ閉鎖的な空間が生まれる。しかし愚鈍な陵辱者はそれに気付かず外からレグナの裸体を貫く。 「ぁ…っ、ぁっ、く…ぅ」  身体がシーツを滑り、また引き戻される。レグナはその間もミカモトの愛想のない目を捕らえ、ミカモトもまたレグナの真っ直ぐな光に囚われる。互いの絶妙な力加減によって指と指に浮かぶ両者の汗と熱いまでの体温まで離せなかった。さらさらとした蜜を塗った唇は声を殺してミカモトを呼んだ。彼女は応じるように目を伏せる。彼は快感と苦痛の(せめ)ぎ合う中で微笑を見せた。 「うねるぞぃ!なんといういやらしい腸内(おめこ)じゃ!絡み付いて、ワシの魔羅を離さん!」 「ぅっ、くっ、…っふ」  ミモリはレグナを貪り食った。固く閉じた睫毛が反る。ミカモトは揺れの伝わる手を強めに握った。彼は湯気を発しそうな息を吐き、シーツの短い間隔を行き来する。ミカモトを見上げ、蕩けながらまた微笑う。肌に贅肉がぶつかる乾いた音が激しさを増した。 「ぅぉおっ!搾り取られるぞぃ!このド淫乱(スケベ)おめこが!貴様は一生、ワシの魔羅ケースになるんじゃ!」  ミカモトの視界からレグナが消えた。白い脂肪の塊が彼を覆う。しなやかな脚だけが肉団子の両脇から伸びていた。爪先まで張り、小刻みに震えている。彼もまた絶頂に達しているらしかった。汚液を最後の一滴まで注ぐつもりらしく小柄な脂の巨体は蠕動(ぜんどう)し、収縮する美しい青年の内側に種を塗り込む。 「ワシの種壺になるために生まれてきたんだねぇ…魔羅なんぞもう要らなくなるくらい、この雄子宮(おめこ)でうんと気をやるだぞぉ」  まだ腰を打ちながら芋虫が生えたような脂身の手が快感に虚ろになっているレグナの頭を撫でた。 「今度はここを可愛がってやるけぇのぉ」  ミモリは平たい胸の突起を捏ねた。まだ息を荒くしている青年が悶える。下腹部がほんのわずかに膨らみ、本当に子を宿しているかのようだった。 「あとは頼んだぞぃ、御神本」  陵辱者はベッドから降り、肉を揺らしてシャワールームへ行ってしまった。まだカーテンの中では荒い息遣いが聞こえる。頬を撫でた。落ちそうな唾液を唇から拭う。レグナは膝立ちになってミカモトへ倒れ込む。彼の身体を受け止めた。鎖が両手首の間で鳴り、(たわ)んだ。彼の内腿からは泡立った多量の白濁が滝のように流れた。シーツにも白いだけの泥沼が出来ていた。ミカモトは髪に口付け、そして毛先まで何度も梳いた。彼の肌は冷め、片手では何度もその皮膚を撫で摩り温もりを与える。そしてミカモトは足枷の鎖をシーツに転がるそう大きくはない鉄球から外し、両足首を繋ぎ直した。頑丈な手枷足枷と強靭な鎖はそれだけで十分な重みがあるのだが、ミカモトは意に介した様子もなくレグナを抱き上げた。黒いスーツはレグナの下肢伝いに粘液を纏った。彼はそれを気にして彼女を窺うが、ミカモトはその額を啄むだけだった。大衆浴場とも違い手入れもされないカビと錆びだらけの古びた風呂場でミカモトはスーツやカッターシャツの色をさらに濃くしながらレグナの身を清めた。髪を洗い、枷の周りを揉み、タオルで叩きながら水滴を払い、温風を毛に当てる。自宅と職場の違いはあれど失った日々がそこにある。感覚としてミカモトの中で彼はラグナだった。だが理性だけは彼をラグナと認めなかった。レグナはまた店が閉まるまで客を取らされ、ミカモトはそれを近くで守っていた。ミモリの息子はミモリが言っていたように本当に店には来ていないらしかった。閉店時間になり帰る頃になると客に柱へ縛り付けられたままのレグナはひどく疲れ、ミカモトは担ぐようにして帰路に就いた。物静かな2人は何か話し合うこともなく狭いアパートで身を寄せ過ごした。時折レグナは自身の衣類を(はだ)けさせ眠ろうとするミカモトへ気を遣ったが、彼女にとってこの床夫は恋人に酷似していようと恋人ではなかった。手を繋いだり腕枕をして寝たりするのが精々で、そのたびにレグナは安堵したような表情をみせた。数えるほどの会話を交わし、店で一度別れる。ミモリは美少年の尻で瓶を逆さにし、そこからグラスへ高級な酒を注いだ。まだ10代の半ばにもいっていなそうな若さのある手が震え、肌が赤く染まっていた。ミカモトは肉酒樽を一瞥し香気を楽しむミモリの前に立つ。 「パーチーがある。パーチーがな。パーチーだ。ワシ主催のな。御神本、ぽまえも来い。蘭紅(ラグナ)で男体盛りをする!あのバカ息子も同席するが、まぁよく出来た女子(おなご)がおってのぉ。あの娘がおれば滅多なことはするまい。ぽまえは蘭紅の盛り付けをせい。彼奴(あやつ)()さはぽまえが一番分かっておろう。ワシャ、美味いものは最高の調理法で食う美食家だからのぉ…このとおり」  生きた酒樽の口にまた瓶を挿れ、底を持ち上げる。肉酒樽の表面は赤く染まり、部品は震えている。酒瓶の口を咥えた窄まりは真紅の襞を吐き出しながら液体をグラスに落としていく。 「ぽまえも飲むかぇ。仕事中か」  ミモリは口を付けたグラスをミカモトへ差し出したが、受け取らずにいると支配人はいくらか機嫌を損ねた。彼女は頷いた。 「とりあえずパーチーのことは頼んだぞぃ。蘭紅がどう飾られるのか、楽しみで仕方がない。最高級の食材、最高級の板前シェフ、最高級の男体食器(プレート)、良いぞぃ、良いぞぃ」  ミカモトは承諾した。ミモリは下卑た笑みを浮かべ、生酒樽の処理を頼み席を外した。パーティーには花瓶もまた気に入りの美男子を使うらしかった。ミカモトの経験からいえば椅子も下級の床夫を使うらしかった。途中で倒れた床夫に座っていた要人を支え、その椅子の折檻を務めたことがある。ミカモトは生きた酒樽を抱えて風呂場に連れ、内部を洗浄した。診療所のような設備がないここではその程度の処置しか出来ず、意識の朦朧としている支配人好みの美少年に薬を飲ませ、狭くカビ臭いタコ部屋に寝かせた。支配人室に戻るとドモンの姿があった。ミモリは苛立った様子でテーブルを指で叩き、ミカモトを睨む。 「早よぅ其奴を摘まみ出さんかぃ!不愉快だっ!」  ミカモトはドモンのスーツの袖を引いた。やはり簡単にはいかなかった。冷たい眼差しが降り、彼女の横面に素速い殴打が入った。重い拳によって焦点を定めることに苦しみながらミカモトも転倒しかけた勢いに逆らいドモンに蹴りを入れる。黒光りするヒールが壁を傷付けた。 「よさんか。この部屋まで荒らす気か?貴様らは!ワシが出ていく!ワシが!覚えておれ。(せがれ)よ、貴様は出入り禁止だ!ワシに二度と近付くでない!」  ドモンは肩を竦めて冷ややかな笑みを浮かべた。この接近禁止と出入り禁止はもう3桁に至るほどの回数提示されているが一度も守られた試しがなかった。 「貴様!このままではワシャ御神本と暮らすぞ!御神本が!貴様を!ミンチにしてくれる!貴様をミンチにして、野良犬に食わせてやるからな!ええ?貴様のようなバカ息子には!鐚銭(びたせん)一文プライスも渡さんからな!ワシャ…蘭紅にすべてをくれる!今決めたぞ!御神本!:一筆(いっぴつ)認(したた)める!ペンと用箋をよこせ!」  ミモリは喚くように言った。ドモンの目の色が変わった。動いたミカモトへ飛び掛かる。壁を蹴り宙から繰り出される蹴撃を彼女は手の甲で受け止めた。衝撃が骨に響き、一瞬手首が可動域よりも曲がる感じがあった。ミカモトは跳び、回ったままの勢いで受け身を取ったばかりのドモンの首を足で打つ。ミモリを部屋から出し、扉を守る。観葉植物に沈んだドモンはゆっくりと起き上がった。エナメルのような真っ白な銃が懐から現れ、ミカモトに向いた。銃身は純白だったが、銃口は丸く、彼女の目からはぼやけても黒く塗り潰されていた。ラグナを殺したのもこの真っ白な銃だった。 「死ぬか…?あの淫売夫と同じように」  ミカモトはトリガーガードの奥の形の良い指の肉が歪むのを凝然と観察していた。ヒールで床を確かめ、トリガーが引かれた瞬間に地を蹴った。銃声が耳を爆破する。左腕に灼熱が広がるがわずかに肉が裂けているだけだった。痛みを覚えるよりも先に銃を奪った。しかしナイフの冷たさが首筋にある。 「よく考えろ」  腕から落ちていく血がドモンのスラックスを汚す。 「貴様が死んでも誰も困らない。だがあの死に損ないの木偶人形がどうなるか想像するといい。俺が、必ずまた殺す。生きる苦しみを覚え込ませたらな」  ミカモトはドモンの冷え切った瞳を捉えた。 「やめて」  彼女の呟きにドモンの口角が上がった。グリップエンドで殴られる。 「俺の父上だ。貴様のでも、あの淫売夫のでもない」  ドモンは怯んだミカモトを薙ぎ倒し、床にぶつかったその頭部へ銃口当てた。ミカモトは床を赤黒く汚しながら質の良い生地で仕立てられたスラックスを掴んだ。 「ころさないで」  ミモリの息子は鼻を鳴らした。冷たく固い金属が離れ、彼は部屋を出て行った。ミカモトも急いで後を追う。ミモリは無事で、支配人とミカモトにのみ扉の開閉が許された完全プライベートルームで飯を食らっていた。ミカモトの惨状に気分を害したらしく嫌味を言われ追い払われてしまう。そしてレグナの働かされている個室に向かった。襖ドアの脇に立ち、出血が止まりつつある傷を押さえる。ミモリの息子がレグナを殺しに来るのではないかという疑念に気が気でなかった。手当てしている間も惜しい。満足した様子の客がミカモトに気付き驚いた顔をした。(くるわ)チーフからも身形をどうにかするようにと苦言を呈された。非正規雇用床人(アルバイト)たちが個室をレグナのいる部屋の掃除に入った。レグナは部屋の杭から鎖を外され通路へ出てきたところだった。ミカモトに気付き、彼女も一目、恋人によく似た青年の無事を認めると怪我も忘れ表情を柔らかくした。手当てに戻ろうとしたがレグナはミカモトを呼び止めた。 「怪我、大丈夫なのか…?」  微風(そよかぜ)のように彼は話す。たまたま傍にいた郭チーフもこの床夫が喋ったことに意外そうな態度を示した。ミカモトは頷いた。 「自分のことは自分でするから。アンタのことも、少しは手伝える」  見た目の印象よりも低く掠れ気味な声が柔らかく響いた。ミカモトはまた頷いた。出血は止まり、消毒をして包帯を巻いた。穴の空いたジャケットを眺める。繊維は熱によって溶け、縮んでいた。ラグナが生前に感じた痛みの何分の1かに過ぎない感覚に浸る。レグナはこのような痛覚を知らなくていい。今でさえ心身の激しい苦痛の日々に身を窶している。ミカモトは手首を掻き切ったり首を吊った床夫を何人も見ている。その物言わなくなった身体を清め無縁神の聖寺院殿に投げ込むのもミカモトだった。生き残ってしまえば折檻が待ち、それを担うのもまた彼女だった。ある程度の手当てを終えると補水液を作り、酒樽にされていた若い床夫に飲ませた。彼は顔色を悪くして呻き、吐いてしまったもので枕を汚していた。ミカモトは診療所へ電話した。補水液も飲めなくなっている酒樽代わりを店の裏に放り出し、剥いだ枕を洗った。背後から気配があり鎖の音がした。やがて背中に柔らかなものが当たる。レグナは野良猫のようにミカモトへ身体を擦り寄せた。 「怪我、平気なのか」  鎖が両手の間で光っている。ミカモトは頷いた。 「帰ったら縫うから。針と糸、あったよな」  片手を吊るしながらレグナは慎重に破れた腕部の布を摘んだ。濡れた手では触れず、首を伸ばして頬に唇を当てた。すると目の前の青年の冷たげな眼差しが柔くなり、引き結ばれた唇も緩んだ。彼もまたミカモトの切れた口角へ接吻する。 「この後、あのジジイに呼ばれてるから」  ミカモトは頷けなかった。レグナは彼女の背を親しげに叩き私室へ向かってしまった。枕を洗い終えミカモトも同じ場所に急いだ。天蓋カーテンには醜い肉達磨が、しなやかな肢体の青年を食らう影絵が映されていた。ドモンの姿はない。ミモリの息子は気配を殺し、ミモリも気付かないうちにこの部屋の壁に寄り掛かっていることがあった。 「おぉ…(あっち)では存分に()をやれなかったであろ?ここでは沢山、絶頂(アクメ)するといい。ワシの高級(ゴージャス)種汁(ミルク)をうんとこのいやらしい腸壺(おめこ)に飲ませてやるからの」  レグナは片脚を上に開き、支配人の手から生えた巨大芋虫を密孔に受け入れていた。粘度の高いローションによって水音が立ち、レグナの漏らす声と獣のような興奮の息遣いでさらに悲劇的で淫猥な空気を醸し出していた。 「ワシの指を美味そうにしゃぶっておるなぁ。ワシの指遣いでこんなんじゃ、ここにワシの魔羅棍棒を突き立てたらどうなる?おお…()いやつじゃ。もう愉しみで仕方ないのか?きゅうきゅう食い締めて、なんてスキモノだ…」 「…っく、っふぅ……」 「ここが悦い?ここか?それともここか?このド助平(スケベイ)。まずはワシの指で絶頂(アクメ)するんじゃ」  市販の骨無肉塊(ボーンレスハム)に似た腕が前後にリズムを付けて動いた。レグナは首を反らす。持ち上げた膝が跳ねている。 「あ…ぁ、っ、」 「我慢ならん!もう挿れるぞぃ!ぅおお…!」  小柄ながらも丸々太った巨体は自由の利かない青年を丸呑みする。腰を掴んで容赦のない抽送がはじまった。 「あっあっ…」 「素晴らしい!素晴らしい!素晴らしい雄膣(おめこ)じゃ!魔羅が溶けそうじゃぞ!おお…ぉおおお!」  レグナはシーツを掴み、カーテン越しにミカモトを見つめていた。彼女もまた彼の虚ろな双眸を捉えた。あまり言葉を発さない唇が声もなくミカモトを呼ぶ。そして微笑んだ。ミカモトはわずかに目蓋を伏せる。店の裏にいた猫たちに懐かれた時の仕草がそのまま癖になってしまった。 「あ…ぅうっ、」  彼の肩が震えた。シーツを掴む手が力む。玲瓏な目を眇め、レグナはまたミカモトへ向け弱い笑みをみせた。 「あ……っく、」 「ぉおお!おおっ!ぁあ!なんと素晴らしい!なんとよく締まる雄臓腑(おめこ)じゃ!そんなにくぽくぽ吸うでないわ!くぅう!」  突き入れて間もなく高速で貪り、脂肪塊(ラードケーキ)は精油を撒き散らす。レグナは臓器を膨らまされる苦しみに喘ぎ、結合部から種泡が漏れ出る。 「おおお…放精が止まらんわぃ!尻子玉にかけてやるからの!確実に孕むんじゃ!お前さんのガキも魔羅乞食にしてやるからの!」  レグナの腰が前後に揺れたが肉厚な手で固定されてしまう。 「あ…ぁああ…っ」  瑞々しい肌と掠れた声の艶めきが増した。蛹が羽化し蝶へ変わる危うさと野性的な色気が爆ぜる。ミカモトを市井の女にさせなかった脚の間の体外器官もその毒気ともいえた媚態に()てられてしまう。ミカモトは霊感に打たれ、許しも得ぬままベッドに近付いた。ミモリもそれを咎めることなく、麗しの性奴隷の中に種を注ぐ。 「御神本!ぽまえが仕込んだのか?なんと…ワシ好みの肉壺じゃ…」  むしろミモリは呼ぶ手間が省けたばかりといった様子でレグナの膝裏を起こし、クリーム状になっている混合液でほぼ隠れている結合部を彼女に晒した。レグナの小さな尻は脂楔に沿って浮かされ、そして自重によって串刺しにされる。彼の瀞んだ瞳はミカモトを射抜き、鎖の付いた手は彼女を求めていた。 「舌を吸うてやれ」  下卑た笑みを浮かべミモリは言った。ミカモトは躊躇い支配人の顔色を窺った。 「ぽまえのためなわけあるか。此奴の口も塞がれた時、秘唇(ぼぼ)がどう締まるのか試したい」  ミモリは振袖脂肪に覆われた片腕でレグナの両の膝裏を押さえると彼の細い顎を掴みミカモトに向けた。透蜜が薄紅の舌に絡み、唇を光らせる。 「胸粒を抓ってやれぃ。するとよく啼く。蘭紅は胸粒で絶頂(アクメ)できるからの。何度でも、絶頂をキメるといい。ワシもお前にこの魔羅玉をくれてやるからのぉ」  真下から急激に突かれ、レグナは気を失いかけた。 「…たの、む」  意識をどうにか保っている彼は微かな声でミカモトを乞うた。躊躇も狼狽も打ち砕かれ、彼女は恋人によく似た唇を塞いだ。 「ん…っぁ、」  恋人と重なる声が耳の横を抜けていく。慎ましやかに彼の舌先と触れ合う。 「くぅうう!キツい!締まる!さすがじゃ!さすがじゃ!さすがじゃぞ!いい!いいぞぃ!ああ…出るッ」 「ぁぐ…っ、ふ…ぁ!」  レグナのミカモトの腕を掴んでいた手に力が入る。彼の平たい腹がわずかに膨らみ、多量の性液を受け止めていた。そこが収縮すると結合部に纏わり付いたクリーム状の体液に黄ばんだ粘液が加わる。 「…本当に蘭紅は中出しが好きじゃのぉ。愛いやつよ。お前のように中出しで絶頂(アクメ)するやつはおらんかった。本当に、愛いやつよ」  ミモリはレグナの体内で脂汁を搾り取ってからいつもと同じようにシャワールームに移動した。残されたレグナはミカモトへ倒れる。汗で張り付いた前髪を彼女の指が除けていく。 「少しだけでいい。こうしていたい」  彼は薄い目蓋を閉じた。亜麻色の髪を梳く。腕の傷が痛んだ。伏せられた長い睫毛はなかなか上がらず、ミカモトは顔を覗き込む。鼻先が触れそうになると、彼はキスをした。腕の傷が痛んだ。ミカモトは力尽くでレグナをベッドに押し倒した。陰が彼にかかり、冷めた顔にわずかな焦りが浮かぶ。 「みかもとのことしんじるの、ダメ」  驚いて硬直しているレグナを抱き上げた。脆い傷口がぷつりと裂ける感じが腕にあった。

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