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第5話
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ミモリ主催のパーティーでミカモトはレグナを飾り付けた。彼は葉を敷き詰めたテーブルの上に仰向けで寝、麻布で手足を巻かれていた。開口具によって閉じることのできない口腔には小さな花束が挿してある。板前シェフに教わりながらスライス鮮魚がレグナのなめらかな肌に規則正しく並んでいた。メインホールに運ばれてくる直前に打たれた催淫剤によってレグナの肌は紅潮し、薄らと汗を浮かばせていた。室内には人工的な冷気が循環していたが、それもまた彼を追い詰めた。この肉体の中心部は花茎を通されているのとは別に芯を作り、ゆっくりと天井を目指して傾いていた。ミカモトはそれをメインホールの入口から見送り、パーティーの終わりまでミモリを待つためロビーの壁に張り付いていた。離れたエントランスでは煌びやかなドレスや瀟洒なタキシードが出入りする。それを端から端まで眺めていた。ミモリの息子の家に置かれていた水槽 を思い出す。華美であらずんば人にあらずというところはミモリ親子はよく似ていた。防音扉の奥からは音楽団の演奏が聞こえた。来場する派手な衣装の波から逆らうようにメインホールから出てくる人物があった。一際目を引く黒々としてどのような照明であっても艶やかに輪を落とす長い髪を片側の露出した肩に垂らし、淡いパープルのホルターネックのロングドレスに身を包む美しい女だった。優雅な白いヒールサンダルとその佇まいは目を惹いた。彼女はエントランスに向けて手招きする。怯えながらその女と並ぶには遜色のある男が近付いた。半歩どころか一歩分距離を空け、献上するように女へ何か差し出した。それが何なのかは小さくてミカモトからは見えなかった。女は蠱惑的な笑みを粗末な青年へ浮かべ、手の上のものではなく、体格の割りに細っそりした手首を掴んだ。雰囲気はラグナによく似ていた。見覚えがあるような気がしたが娼館には巨万 と似たり寄ったりの床夫がいた。それがミモリの好みだったからだ。ミカモトは1人ひとりの顔と戯名を覚えているつもりだったが次から次へと入れ替わるため把握に漏れがある可能性もあった。
ラグナに似た雰囲気の錆びた金属色の髪をした青年は、賓客の美女に抱き寄せられながらメインホールへ引っ張られていく。しかしミカモトの傍にある防音扉とは別のカーペットの敷かれた大きな扉からドモンが現れた。この男もまた周りのすべてを引き立て役にしてしまう。乞食然とした身形の青年から美女を剥がし、何やら言い争っているようだった。彼女は開き直ったように首を傾げ、共にいて互いに見劣りのないドモンではなく物乞いと見紛う、或いは本物の青年と出て行ってしまった。ドモンはエントランスに1人残されていた。彼は離れたところからそれを見ていたミカモトに気付き、陰湿な笑みを浮かべて目の前にやって来る。
「社交ダンスはできるか」
問われるままにミカモトは頷いた。彼は力任せにミカモトの黒いジャケットの袖ごと腕を掴んだ。スタッフルームに連れて行かれ、草臥れた安いスーツを着替えるよう強いられた。ドモンはかなり適当に濃い青のドレスを選び、ミカモトに渡した。レースの袖によって傷が隠れた。ドモンは疲れた様子でスタッフルームのソファーに身を沈め、ミカモトの化粧についてのスタッフの問いにも投げやりな注文を付けた。そうして彼女は仕事を終えた部外者から参加者に変わりメインホールへ引かれていく。履き慣れない細いヒールは歩きづらく、ドモンの歩幅も速度も容赦はないくせ別々に行くという選択はなかった。
メインホールは照明が落とされ、ミラーボールが丸い光りを床に注ぎ、寒いくらいの温度設定だった。音楽団の演奏の前で踊る者やグラスを持ちながら会話をする者、料理や酒を楽しんでいる者たち様々だった。テラスは特に出会いの場でもあるかのようにさらに華やかさを増していた。ミカモトは腕を引かれミモリの傍に連れられる。主催者は大きなワイングラスを片手に、高級そうなソファーにどかりと座ってパーティーの様子を眺めていた。ミモリは参加者たちと話したり踊ったり口説いたりするでもなく、この空気に身を溶かすのが好きなようで、周りもそれを心得ているのか来場の際に二言三言挨拶をするとミモリを1人にした。ドモンの接近に赤らんだ顔でニヤニヤとしていたミモリの表情は険しく変わった。
「御神本がおりますから、父上、そう警戒なさらないでください。何かありましたら御神本が父上を守ってくれるのでしょう」
ドモンはミモリの座るソファーの近くに椅子を置いた。ミカモトも座るようにとドモンは言った。
「ワシの義娘 はどこじゃ」
ミモリはまったくドモンと目を合わせることもなくワイングラスを揺らした。
「体調が悪いとかで、少し顔を見せたら帰ってしまいました」
「ふん、どうせ貴様が意地の悪いことでも言ったんであろ。何故 この楽しいパーチーの席でバカ息子の顔を見なきゃならんのじゃ」
ドモンの長い睫毛がわずかに伏せられていたが、彼は笑っていた。
「御神本、ぽまえも飾り立てればそれなりの女子 になるのぉ。もう少しシュッとしたドレスはなかったのか。ああ、魔羅が浮いてしまうのか」
ミモリはドモンを視界にも入れたくないようで座るミカモトのドレスの裾を摘んだ。下腹部の辺りから大きな折りひだがつき、ミカモトの器官が隠される。太い指が布の手触りを確かめている。しかし白い手袋に覆われても形の良い手がそれを止めた。
「はしたないです、父上」
ドモンは父へわずかに笑んでみせ、ミカモトには激しい眼差しをくれた。
「蘭紅 の男体盛りのことじゃがの、たいへん評判が良かったぞ、御神本。元々器が良かったからの。ぽまえの盛り付けが良かったのかは定かではないぞぃ」
ミカモトはドモンを警戒し、レグナのいる方を見られなかった。
「白濁液 をつけて刺身 を食うのも悪くないのぅ。なかなか良かったぞぃ」
ミカモトはわずかに頭を下げた。その瞬間にミラーボールの光や間接照明が消えた。音楽団の演奏はすぐには止まなかった。ミモリは立ち上がり慌ただしく周囲を見回した。ミカモトはドモンを警戒したものの、彼は動じた様子もなくソファーに座って運ばれてきたカクテルグラスを手にしていた。
「なんだ?なんだ、なんだ?」
ミモリは苛立った様子で叫んだ。暗闇に視界が利かずひどく狼狽しているようだった。
「整備不良では?」
ドモンは冷静なまま答えた。
「御神本!見て来い」
普段ならば承知以外なかったが、ミカモトはドモンを一瞥して躊躇いを口にした。するとミモリも理解したらしく大きな溜息を漏らした。
「分かりました、私が行きます」
ミカモトはドモンがレグナのいる料理の並ぶ方向とは逆方向に行くのを騒然とする暗い視界から逃さなかった。しかしある気配によってミカモトの履くピンヒールは真紅のカーペットを蹴った。傍にあった誰かが使ったケーキ用のフォークを奪い取り、ドモンを襲う人影に割り込んだ。小さな金属音がする。ナイフが見えた。火花を散らすまでもなく華奢なフォークは競り負けた。武器にも防具にもならない食器を投げ捨て襲撃者を蹴る。部屋の壁際にいくつか設けられたテーブルとソファーが派手な音を立てた。
「余計な真似を」
ドモンの呟きが聞こえた。怯んだ襲撃者を伸し掛かる。
「ドブネズミも逃げていくぞ」
意味深長なミモリの息子の言葉にミカモトは咄嗟にメインテーブルに意識をやってしまった。手に痛みが走る。
「ネコはネズミを追うものだろう」
ドモンが笑うのが分かった。ミカモトは予備に持っていた注射器をドモンへ投げ渡し怪しい動きをした影を追いテラスへ飛び出す。このパーティーにはそぐわないマントを被ったような影は手摺りを軽々と乗り越えた。ミカモトもヒールサンダルを脱ぎ捨てて手摺りを越えた。彼の名を呼んだが風に拐われた。やがてドモンの警護隊がマントの青年の行手を阻み、外灯や月に銃を光っていた。ミカモトは叫んでいた。マントの青年に飛び付いて警護隊に背を向ける。
「うたないで。うたないで!」
叫び続け、声を出すことに慣れていない喉はすぐに掠れた。捕まえたマントからは花の中でも特に癖のある甘い匂いがした。その下は素肌で、汗ばみ、蒸れた空気がミカモトを撫ぜる。会場のエントランスからドモンも現れた。その手には見知らぬわけでもない青年が拘束され引き摺られていた。そして純白の銃ももう片方の手に握られている。
「終生 してくれ」
「まって、みかもと、がんばるから…」
ミカモトはマントの青年をより強く抱き竦めた。
「二度も父上を裏切ってどういうつもりだ。梵華地獄に帰れ、悪霊」
よく磨かれた革靴が一歩一歩近付いてきた。
「やめて、おねがい。やめて…うたないで。みかもと、がんばるから、うたないで!」
ドモンの眼差しはいくらか愉悦を含んでいた。ミカモトはどうにかマントの中身の青年が助かる方法ばかりを考え、銃口と睨み合っていた。メインエントランスの開く音がした。ミモリ所有の会場・鹿吠 館 にも明かりが灯っていく。
「何をしておる!貴様!ワシの顔に泥を塗る気か!誰がここで発砲していいと言った!このバカ息子が!ええ?誰が?誰が!誰がここで発砲の許可なぞ出した?」
ミモリは憤激し、指を何度も差し怒鳴り散らした。ドモンは表情を固くする。
「いつまで銃を構えておる!貴様の免許を剥奪するなんぞなぁ、ワシには簡単なのだよ!え?御神本をこの機に亡き者にした後、ワシを殺す気なんだろう?でもな、もうワシは名義を書き換えた!貴様が何をしようと遺産は貴様にはいかんからな!」
ドモンは力無く銃を下ろした。ミカモトは親子のやり取りを見つめながらマントの上から中にいる青年を何度も撫でた。
「早よぅ席に戻らんか!貴様が責任を取って仕切れ!」
ミモリは息子を顎でメインホールに戻るよう促した。ドモンはミカモトに捕らえた男を突き出した。男はぼんやりした目で虚空を見つめ、その肌は汗ばみ息を乱していた。ミカモトの片腕に収まるマントの青年にも打った催淫剤の効果が出始めていた。
「おお、御神本。随分なお宝を持っているの?おお~」
ミモリは熱い息をする襲撃者であり娼館に入り浸っていた成金孔雀と呼ばれる男に分厚い手を伸ばした。
「…っ、」
濡れたハシバミ色の目は外灯によく照っていた。彼は唇を噛んで身を捩り、ミカモトは後ろ手に拘束している縄を掴んだ。
「帰るまで待てん!貴賓室じゃ!貴賓室に連れて来い。ワシゃシャワーを浴びてくるぞぃ。ワシの好みは知っとるな?え?ミカモト。絶対に精 をやらせるなよ」
ミモリは満足げにメインエントランスのほうへ帰っていった。縄を掴む手と反対の腕に収めていたマントの青年もふらふらと地面に崩れていく。警護隊はまだミカモトを警戒していた。レグナの腕を繋ぎ、建物の裏からスタッフルームへ成金孔雀を中に入れた。レグナはもう動けないほどに火照り、服を着せている前に身体を拭いて一度達してしまった。両手足には枷が戻る。ソファーにぐったりとしている姿を何度も確認しながらミカモトは成金孔雀に露出の激しい衣装を着せた。縛られた両腕を解くリスクを負えず、簡単に着せられるものを選んでいくうちに、裾部を被せるだけで済むスモークブルーのニットワンピースが残った。タートルネックは頸で結び、肩から腕、背部が大きく露出していた。潤んだ双眸はミカモトを物欲しげに見下ろし、身を震わせる。息がかかるだけで彼は唇を噛み、指が触れるだけで固く目を閉じた。2人に冷たい水を飲ませ、貴賓室に連れて行く。レグナはほとんどミカモトに寄りかかり、鎖を鳴らして歩いた。
貴賓室は娼館と同じような巨大な天蓋ベッドが置かれていた。ピンク色の照明の下でミモリはバスローブを着ていた。
「随分と地味じゃの。まぁ、いいわぃ。素材がいいからの」
ミカモトは指示されたとおりに真っ赤に塗られた磔台に成金孔雀と呼ばれる青年を括り付けた。ミモリはレグナをソファーに座らせ労 いの言葉をかけていた。
「さて、ミカモト。其奴に人権はあるか」
ミモリはメインテーブルにあったケーキを食っていた。時折レグナの口元にもフォークを運ぶ。ミカモトはこの者が例の客であることを告げた。貧民窟の者であろうと戸籍ナンバーを持ち、多額の借金さえ無ければこの主人にとって人権が有ることになってしまう。ミモリは激しい落胆を口に出してまたケーキを食らった。
「其奴から狙いを聞き出せ。何故バカ息子を狙った?あれでも戸籍ナンバー上はワシの息子だからの。ふん、人権持ちほど用のないものはおらん。え?そんなワシを誘うような美貌 をして?」
主人の好みよりわずかに大きな目がミカモトを慄きながらも水々しく捉えている。彼女の手はニット上から胸に触れた。見た目には括れた腰のせいか華奢な感じすらあったがよく鍛えられ、筋肉が乗っている。ケーブル編みを指先で辿った。
「……っ、ぁ」
ぷつりとした場所をスイッチか何かのように押す。突起は凝っていた。湿った喉を逸らし、青年は声を抑えた。雄芯もまた布を押し上げるまでに育っていた。
「愉しむでないわ、御神本!のぉ、悪いよぅにはせん。質問に答えよ。態度次第じゃ、ワシゃぽまいを賓客として迎えてもいいと思うておる」
ミカモトは下部で勃ち上がっている部分の先端を布越しに摩った。
「、く…ァ…」
返答のない問いが数度続いた。ミモリはケーキを食い終え、料理用昇降機から新たな料理を手にして、つまらなげに磔台を観賞していた。
「強情なやつよのぉ。それにしても妙に感度が良いな。媚薬 を使ったのか」
ミカモトは頷いた。ミモリは頬杖をつきながらフォークを回しスパゲッティを絡めていた。色や匂いからすると明太子 だった。
「ほほ、ならば蘭紅の雄蕾(おめこ)を貸してやるといい。ワシゃ嫌じゃが、未来の賓客と考えれば悪くない。ワシの穴兄弟になれ。え?蘭紅目当てに来る客なんじゃろう?悪い話じゃァない。ワシの賓客となれ」
「あ…っ、」
レグナの声が漏れ、ミカモトの手が止まる。客だった青年は責め苦が止み、肩で息をした。ニットワンピースの雄李が当たる場所はスモークブルーから濃い色に変わっていた。
「ワシもその気になってきたわい。さぁ可愛 い蘭紅、ベッドにおいで。ワシと戯れようぞ」
ミカモトは手を止めたままだった。レグナの声が甘く響く。鎖が鳴り、シーツが擦れた。
「もう熟 れておるのぉ。御神本、ぽまえまさか、あの短時間で蘭紅を抱いたのか」
彼女はぶるぶると首を振った。
「ふん、ぽまえの極太魔羅で遊ばれたら、いくら名器の肉壺 でも緩くなるからの」
「あ…っ…」
レグナの声にミカモトの手は目の前の美しい獲物のことも忘れて震えた。
「可愛 いのぉ…御神本、手を止めるでない!だがただで絶頂 さすな。せめて名前くらい訊け!」
彼女は頷いてニットワンピースの上から元客の陰茎を扱いた。毛糸が色を変えていく。
「…っく、ぁっァッ、…ふ、」
孔雀と呼ばれるほどの麗しい男は磔台を揺らし、繋がれた鎖を鳴らした。唇には血が滲み、肌は熱気を纏い湿っている。陽炎が見えそうだった。名前を訊ねても、襲撃の目的を問うても彼は悩ましげに眉を寄せてばかりで答えなかった。
「すごいぞ!今日は特にすごい!なんだこれは!なんだこれは!」
ベッドから肌と肌のぶつかる乾いた音と唯一彼女の茎まで届くレグナの嬌声が響いた。ミカモトは与えられた仕事に集中したがそれでも手に付かなくなってしまう。磔台の獲物はぼんやりした目で腰を捩った。そのたびにミカモトの半端な位置にある手に薬によって過敏になっている熱楔が擦れ、身悶えた。床夫の折檻や迷惑客への仕置き、侵入者の拷問を務めたことはあったが催淫剤を使ったのは初めてだった。それだけでなく、元々経験の少ないミカモトはたった1人の恋人とも性感を愉しみ焦らすための行為ではなく睦み合い相手に応える情交しか重ねたことがなかった。与えられるのは痛みか、もしくは何も訊き出せずこのまま射精一直線の快感で、非常に加減が難しかった。ある意味ではまだドモンと格闘しているほうが容易いといえた。
「ぁっ……んぅ、っあっ、ヲミ…っ!」
「んん?誰じゃ其奴は?ホの字の女子 か?ホの字の女子 と交合 いたいのか?こんなド助平 な女子 同然の雄膣 をして?」
恋人と同じ質の乱れた声で呼ばれミカモトは気が狂いそうになりながら孔雀と呼ばれる美形の男を追い立てる。磔台の後ろに回り、前掛けのような布と肌の間に手を入れた。それだけでこの襲撃者の肉体は小刻みに震え、腰を前に出そうとした。薄い皮膚の形に沿い、円を描きながら胸の2点の肉粒へ徐々に迫る。それからまた名を訊ねた。
「…っ、ぁっ…く、ぅ…」
青年は唾液と血を流してもまだ答えなかった。周辺を弄 っていた指を触れるか触れないかのところまで浮かせ、実を捏ねる。
「ぁ…っん、っく…」
再び同じ問いを投げてみるもやはり答えは返ってこなかった。胸への刺激を続けても彼は微かな声の混じった荒い息を吐くばかりで、その先にあるのは返答ではなく射精と踏み、ミカモトは胸部に触れるのをやめた。彼の前に戻り、ニットワンピースの裾に手を入れた。屹立の根元を鷲掴む。華奢な印象のある体格から想像するものよりも重みがあり、火傷しそうなほど熱かった。ハシバミ色はミカモトを劣情にまみれた眼差しで射抜くが口は固く引き結ばれている。血が唇に紅を差し妖艶な感じがあった。貴賓室にはそぐわない回転テーブルに置いたままのいかがわしい道具箱からゴム製のリングと細い球が連なったような形状の鉄の棒を取り出した。ゴム製のリングで掴んでいた場所を締め、やったことはなかったが娼館の個室で見たことのあるプレイを見様見真似で、青年の猛りに球体連結式のプラグを挿していく。ハシバミ色は瞠目する。そこには緊張感があった。ミカモトはまったく同じ内容をまったく同じ調子で問うた。傷付いた薄い唇が開き荒々しい呼吸の音が聞こえた。金属棒がさらに挿入されていく。しかしミカモトの手の中のものは萎えなかった。ゴム製のリングにきつく締め上げられ、彼の陰部は張り裂けんばかりに腫れていた。
「よ、…せ…」
チョコレートが溶けたような甘い声質が震えていた。ミカモトは名を問う。彼は眉ごと目蓋を下ろした。玉の汗が頬を伝い涙のようで、ビーズ式尿道プラグを食まされる陰李の窪みもまた粘性のある透明な液体を滴らせていた。彼からも癖のある花の匂いがした。これが催淫剤の匂いらしく、ミカモトは暫く嗅いでいたせいか浮遊感があった。ベッドから聞こえるレグナの声に動悸が止まらない。手元が狂ってこの青年の弱いところを壊してしまいかねなかった。過呼吸のようになりながらプラグの球を目安に少しずつ沈ませる。
「ぁ……っぐ、ぅ…よせ…やめ…ろ…」
ミカモトはまた事務的な質問をする。脅しにもうひとつ鉄球を食わせる。小さな頂孔はわずかに捲れて透明な蜜を噴く。
「ぁ…アぁ…ぁ…っぅ、く…」
顔立ちに比例した美声は裏返り消えていく。ミカモトは追い打ちをかけるように決まりきったことを問う。プラグは深々と青年の雄茎に入り、取っ手のリングがプラムのような先端部に接した。茎を縦に走る大きな筋は背骨のように連結した球の凹凸を浮かべた。銀輪に指を掛けゆっくりと引き抜いていく。プラグとは違う動きでそこが跳ねた。手淫を施すとプラグは勝手に浮き上がった。しかし蜜口に球が引っ掛かったようで抜けた幅はそう大きくはなかった。透明な液体はゆるい粘り気を帯びて床に垂れていく。
「…っあっ……ぁっ」
青年は暴れた。しかし彼本人の意思ではないようだった。鎖が鳴り、磔台が震える。名を問う。口は開き放しで戦慄していた。喉の隆起が沈む。何か発すると感覚で分かった。
「こ、ろせ…おれを…こ、」
ミカモトはレグナに腰を打ち付けるミモリを呼んだ。通常の拷問に移る許可を得る。レグナはシーツを掴んで痙攣し、果てていた。ミモリは面倒臭そうな顔をして、顔に傷を付けないことと殺さないことを条件に渋々容認した。ソファーの下に隠してあるナイフを手にするとミカモトは青年の左手小指の爪と肉の間に刃先を添えた。彼は抵抗をやめた。名を問う。汗ばんだ顔には反抗心と迷いと劣情が綯い交ぜになっていた。唇は開きかけた。彼女が相手にしてきた大体の者は打擲や吊し上げを経てもこの辺りで口を割った。只者ではないらしかった。ミカモトは自信の無さそうに顔を伏せ、ナイフの持ち手を勢いよく降ろした。小指の爪が飛ぶ。青年は悲鳴さえも噛み殺した。唇からまた血が滴った。
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