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第8話
青年は汗で額や頬を濡らし、息を荒くしていたが、それを押し隠すように振る舞い、ミカモトに改まって名刺を渡した。それによると彼は私立探偵でカキザキ-柿崎-・グラツィア-Gratia-・シャンリィ-山梨-という名前らしかった。しかしミカモトは娼館で会ってきた者たちとの交流からして本名かどうかは非常に怪しいものだった。カキザキは氷を浮かべた水でこまめに喉を潤す。汗はまだ止まらない。ミモリ親子とはまた違う聖飾名にミカモトは戸惑った。
「グレーシアとでも呼んでくれ」
彼はまた水を飲んだ。グラスの触れた部分が結露している。多量の汗は尋常ではなく、ミカモトはタオルを渡した。カキザキはどこにも焦点を合わせず、眠そうでありながら活気の潜んだ瞳を質素な室内に泳がせる。苦しげで熱気の籠もった息遣いと氷の揺れる音ばかりがワンルームに響く。床に立てられた綺麗な形の爪が白くなっている。ミカモトによって爪を剥がされた左手の小指には絆創膏が貼られていた。明るいブラウンの目は瀞みを帯び、同情や保護を乞うような空気感を漂わせている。去り際に見た新たな雇主の色香と重なった。この青年は欲情しているらしく、それを必死に隠そうとしていた。病的な発汗にミカモトは粉からスポーツドリンクを作って彼に出す。湯で溶いたためカップに氷を落とす。カキザキは溜息を吐くように礼を言った。彼は壁に背を預け、身体は火照っているにもかかわらず燃え尽きているようだった。体調を気遣うが煩しげに肯くだけだった。帰る様子はなく、ミカモトはもう居ないものとして扱った。ドモンの選んだ趣味の良いスーツを部屋の隅で脱ぐ。背後から押し殺した艶のある声が聞こえた。元々のブラウニーを思わせる砂糖染みた甘い質の声がさらに扇情的な色を持つ。しかしそれがやはり苦しそうで、振り向くと彼は床に寝そべっていた。ミカモトは息を切らすカキザキの肩に触れた。
「…っ!」
パーティーで打った薬よりも過敏な反応を示し、彼は身を縮ませる。何か飲まされたのか問う。カキザキは首を振ったが妙な間があった。誰と会ったのかを訊ねても彼は答えなかった。以前したのとは違い、答えなかったからといって今回は罰を加える必要はなく、一度否定や黙秘をされてしまえば追求しなかった。手の甲をしっとりした薄い頬に当てた。そこに疚 しい意図はなくともカキザキの引き締まった肉体はもどかしそうに悶えた。淫らな欲望に満ちた眸子はミカモトの手の甲を自ら捕まえ、唾液に照る酷薄げな唇でその指を弱く食み、やがて撫で回し過ぎた猫の如く彼はミカモトの手を噛んだ。しなやかな脚に挟まれる雄芯は布地を押し上げ、骨格や声音からいっても彼は成長期を終えているようだったがミカモトの手を噛み、指に舌を絡める姿はひどく幼かった。色情に支配された眼はミカモトを見上げ、彼女が何の頓着も見せないでいると無防備に投げ出した上体を起こした。神妙な顔をして品の良い口が小さく開いた。
「触って…くれ……」
自分の唾液を纏ったミカモトの手を彼は服の下に入れた。素肌と胸の突起が彼女の掌に当たる。
「…ッふ、」
カキザキの手に導かれるままミカモトは片胸の凝った肉粒を指に引っ掛けたり指先で捏ねたりさせられる。むしろ彼から擦り付けてさえいた。他人の手を好きに使いながら彼も自身の手で隣の胸を触りはじめる。
「くァぁ…!」
胸板に押し込むとカキザキは喉を反らし、ミカモトへ傾いた。受け止めた身体は以前の同棲相手や先程の気が狂った犬人よりも体格が良く、質量と肉の反発、確かな重みがあった。彼は肩を上下させ、触れた場所からミカモトも揺らぐ。冷淡で人嫌いそうな印象に反し、カキザキは突き離すこともなく、彼女の無抵抗な胸元や肩口に甘えていた。
「姉さん…」
彼はむくりと顔を上げるとミカモトの引結んだ唇を塞いだ。そのまま体重がかかり、自室の床に背を打ちつける。
狭いシンクを吐き出した水が叩く。5度目の嗽 で妥協し、ミカモトはリビングで眠るカキザキに薄布を掛けた。正気を取り戻したヘーゼルナッツの瞳が気配を悟る。頭が痛いらしく額に手を当て彼は起き上がる。しかしまた横になった。ミカモトはまったく招いた覚えのない客に遠慮することもなくその傍に座った。それが日常だった。
「悪い…」
嗄れた声で謝られ、ミカモトは首を横に振った。結局カキザキの欲求は胸と股で解消した。その間食まれた唇、舐め回された口腔と扱かれた舌にまだ変な感じが残っている。ドモンのマンションでついた手の傷に軟膏を塗ってカキザキにも軟膏を差し出す。そう丈夫でもない胸の皮膚2点を執拗に捏ね回したり擂り潰したり、抓ったりした。彼は目を見開いて顔を背け、耳まで赤く染めた。
「忘れろ…」
ミカモトは断られた軟膏をしまい、またカキザキの存在を忘れる。食材を何も置いていなかったことを思い出す。
「姉に会っていた」
完全に意識からカキザキが消えた時、まるでそれを察したように彼は話しはじめた。ミカモトは目と顔だけカキザキに向けた。ふと彼女は兄妹という言葉を使った気の触れた青年を思い出す。
「錠剤を飲まされた……答えてない質問は、これだけか」
拗ねながらも挑発しているような色がそこにはあった。ばつが悪そうで、これ以上踏み込まれたくないといった様子だった。彼は暫く立てないらしく、まだ横になっていた。
「久々に会った。やっと見つけた……それが、この様だ……」
ミカモトの中で雇主の犬奴隷の泣いた顔がフラッシュバックする。その儚さと脆さはこの狭いワンルームで看病した想人との区別を無くしていく。
「どうして、兄に会える術 があるのに全力を尽くしてでも会おうとしない?」
ミカモトは本当に純粋な疑問をぶつける目を一度捉えただけですぐに投げ出した。
「みかもと、ずっとひとり」
気の触れた青年を揺さぶって穿 ち、引き寄せて貫いた時の落涙が脳裏を過る。ラグナの腕の黒ずみを初めて気にした時のような重苦しい感覚も一呼吸後には忘れるほどの短かさで伴った。カキザキは唾を飲み、喉の痛みに顔を顰めた。
「本気で言ってるのか」
雇主のマンションにいた儚げな狂人と、このワンルームで暮らした故人とが混合して頭の中に現れ、居座る。ミカモトは頷いて彼等を消し去った。
「ある小娘が、同胞 を探してあの場所に近付いたって話を聞いたことがある」
掠れて消え入っても彼はそのまま話し続けた。ミカモトは興味も示さず、カキザキが喋っているためただただそれを耳に入れているといったような有様だった。この類 の話はミカモトもよく聞き、そして実際目の前で起こっていた。何人か返り討ちにし、何人かは拷問にかけ投獄した。逃すことも許すこともなかった。小娘ひとりが消えたところで事件になれども場所が場所であり、ミモリが苦手とする人権団体が騒ぐ程度で、揉み消すまでもなく社会的には大した問題にはならない。
「それきり行方不明だ。幸いにも探されていたほうの兄は、あの場所を出られたようだがな」
それもまた無くはない話だった。どうにか脱走を果たせた床夫は多くはないものの確かに存在した。或いは正式なものとして身請けか、譲渡先で捨てられたという可能性がある。ミカモトはカキザキの話を珍しさの欠片も感じず聞き流していた。あの店だけでなくあの界隈では飽いてしまうほどよくあることだった。
「まだ、何も思い出さないのか」
彼女は頷いた。カキザキは自嘲したような照れ臭がるような曖昧な笑みをみせた。
「それなら、喋り過ぎた…」
彼は掠れた声で咳払いを二度ほど重ねる。
「みかもと、こころ、もってない」
それが他者から与えられ、疑うこともなく自分のすべてとしてきた評価だった。
「おれはお前の内面のことはよく知らないが、リンバラ-林原-はそうは言ってなかった」
突如出された名前にミカモトは首を捻った。カキザキはそれがレグナの姓であることを告げた。彼女は脳髄に刻むように小さく復唱した。
「お前も被害者に過ぎない」
カキザキはまた痛みに美貌を歪めて唾液を嚥下する。
◇
婚約者の機嫌はあまりよくなかった。珍しく横になって微睡む奴隷を叩き起こし、泣き腫らした顔を指を差し腹を抱えて嘲笑っていた。ドモンは全裸にされ胸を遊ばれる性奴隷を横目に見ながら愛する父に飲ませる水をサーバーから汲んだ。可憐な父の眩い唇に触れ、柔らかな口の中に入る水や食材に対し彼は執念を燃やしていた。何度も飲み比べた結果選んだのがこのウォーターサーバーだった。
「アオたんは無口でいい子よ、乳首が弱いなら黙っとけってのよね」
常日頃から品良く振る舞っている婚約者は体質によって飲酒をするとただでさえ白い肌が病的に真っ白くなり、態度を大きく崩した。タイトなドレスが許す限り開いた膝に体格差も気にせず犬を跨がらせ、肥大化している傾向がある胸粒を弾く。彼女の前にあるガラスのローテーブルには、氷を浮かべた蒸留酒のグラスは置かれ、まだ飲むつもりらしかった。嫌味にならない程度のサンドピンクで塗られた爪と長い指がグラスを持ち、片腕に抱えた人犬の口に傾けた。しかし彼はそれが飲めず、肌に褐色の酒が滴っていく。
「ぁ…ンくっ…」
「アオたんはいい子だねー。あいつほんっとにさー、喋る男はダメね~。すぐさー、でも、とか、やっぱり、とか言ってー」
細い顎や薄い唇を伝う酒を指が掬い、真紅のリップスティックに彩られた唇に消えていく。フォンスゥは少し怒ったような声を上げ、気に入りの真っ赤なリップスティックを鳴いてばかりいる唇に近付けた。
「乳首弱いクセに、粋がっちゃってさー」
「っぁ、はぁ…ん」
「ちょっとツンってしたらすぐでろでろになるんだから」
胸の実を捻られ、アオは甘く鳴いた。動く口をフォンスゥは押さえる。外に行く時に使われるリップスティックが杏色の唇に真っ赤な顔料を付ける。ドモンはそれに目を奪われた。密接な2人の世界に割って入ってしまう。
「酔いすぎですよ、サエグサさん」
愛しい父に飲ませるつもりの水をドモンはガラステーブルに置いた。フォンスゥは酔った目をじとりと同棲相手に向け、無言のままアオに水を飲ませた。彼はまたもや上手く飲めず、口角から溢していく。それでも必死に反らした喉の隆起を浮き沈みさせ水を飲んでいた。
「ンっ、く…んん」
「土門様にはお義父様がいらっしゃるんでしょう?これをあたしにくださらない?」
顔面を酒と水で濡らす奴隷をフォンスゥは抱き寄せ、傷痕で黒ずむ胸板へ頬擦りした。ドモンは愛想笑いをして最近になって数の増えたその質問を躱した。
「何度お訊ねになっても、俺の答えは変わりません。それは俺のです。父には出来ないこともそれにはできますから」
フォンスゥはドモンと喋りながらも飼犬の腿や尻を撫で摩る。
「あたし、アオたんみたいに喋らない男がいいわ。ねえ、土門様。貴方喉潰してくださいな。お義父様にとっても、これにとっても、ただの生肉ディルドでいなさいよ」
フォンスゥは鼻で嗤った。長い爪は容赦なく性奴隷の窄まりを触った。
「ァッ…ぁっん、」
「仕事が出来なくなります。路頭に迷ってしまいますよ」
「あたしが養ってあげるから。みんなあたしのバター犬にして」
「ンぁ、あっ…」
犬の中に潜ったしなやな手が動く。犬は口から涎を垂らして鳴いた。退化した雄肉は情けなく上下する。誰の指でも簡単に達する躾のなっていない駄犬にドモンは苛立ちを覚えた。
「返してください」
「いきなさいよ、雌犬」
フォンスゥはアオを突っ撥ねた。躓 く身体を受け止める。彼女は氷を鳴らしてグラスを呷った。
「随分機嫌が悪いようですね」
「貴方にそっくりな男と会ってきましたからね」
ドモンはアオを真っ白な扉の奥に放り込んでまたウォーターサーバーから水を汲むと自室に戻った。ベッドの上には父であり情人が華美な首輪や腕輪で繋がっている。口移しで冷水を飲ませる。猛獣のような息遣いが聞こえた。最後の一口でドモンは冷たくなった口腔に佇む肉厚の舌と舌を絡めた。だらしなく垂れた乳房を揉みながら先端部を指の腹同士で転がすと父は何も受け入れていない腰を振った。ドモンの形に慣れ、1日中何度も息子の欲棒に突かれた梅花へ高性能の淫具を挿入する。父ははしたなく悦がり、交尾後の雌猫のように背中をベッドへ擦り付けた。
「んほぉっ!おっ!おおぉっ!ちんぽ!息子ちんぽをくれぇっ!んぉっ!」
ドモンは優しい顔付きでそれを少しの間眺めると、無機物で父を愉しませたまま部屋を出る。リビングにはまだ婚約者が酒を飲み、犬の部屋に入る同棲相手を睨んでいた。
「クズ」
ベッドに凭れて床に座るアオは主人の来室に身を伏せた。
「穴に傷は付いてないのか」
フォンスゥの長い爪で穿 られていた穴にドモンは指を突き入れた。蕾は収縮し、主人を歓迎する。簡易的な素人の触診だったが穴は痛みを訴えない。
「実妹の魔羅も受け入れる変態穴 が傷でも付いたら、貴様には何の価値もない」
指を次々と足していく。アオは腰を突き上げ、さらに指を求めた。
「ぁ…あっ……」
「妹の魔羅でイってどうだった?答えろ」
「んっぁ…悲し…です…ッ」
「まったく畜生だな。あの娘が貴様を兄だと認めたらどうしていた?逃げるつもりだったのか、俺から?」
後孔は拳まで難無く入った。性奴隷は頭 を振る。内部の様子を窺いながら手首まで進めていく。
「貴様は俺のものだ。貴様みたいな生ゴミは!こんな淫乱な穴を傍に置いておけるのは、俺だけなんだからな!」
主人の前では目を伏せ、必要最低限のことを小声で話していたこの性奴隷がよく喋り、感情を露わにしていた。ドモンは裏切りに遭った心地がした。
「あひ…っ!アァあ!」
「あの娘は兄がこんな色狂いだったなんて認めたくなかったのだろうな。貴様は一生独りだ!この緩んだ鮟鱇 穴にしか、価値がない!」
「あぐっ…!あァッ!」
肘まで入りそうだった。汚らしい色合いの傷んだ髪を掴む。
「あの女に気に入られて満足か?絶対に貴様を自由になんかしない。貴様は一生ここで暮らすんだ」
異性との交尾は絶望的になった器官の裏をドモンは殴り付ける。勃起まではいかないくせ、それは鼓動した。
「あの娘に晒したようにみっともなく泣け!俺に服従すると誓え。死ぬまで添い遂げたいと乞え!」
「あっァッあっあアァぁあっ!」
何度も内部から勃たない場所を殴打する。アオは悲鳴を上げ、背中をしならせると目を剥いて気絶してしまった。床に叩き付けられる前に抱え、唇に付いた赤い顔料を舐め取る。眉間の皺にも唇を落とす。
「土門様…」
小さく動いた唇を塞ぐ。何度も唾を付けた相手が掴んだ手の間、指の股から灰や砂のようにすり抜けていってしまいそうだった。それをドモンはこの奴隷の勝ち逃げとして恐れた。
「俺のだからな。誰にも渡さん」
「ありがたき……幸せ…」
「あの娘にもな」
睫毛が輝き、点々と色素沈着した目元に落ちていく。
マットレスに奴隷を放ってドモンはリビングに戻った。自室ではまだ父が愉しんでいるはずだった。しかしリビングでは婚約者が背凭れに身を預け、天井を仰ぎながら頭を押さえていた。それは酔いによる頭痛というよりは反省しているような感じがあった。ドモンは隣に座る。グラスの中の茶褐色の酒は飲み干され、球体の氷が溶けている。
「全部忘れてほしいのですけれど、なんて申し上げたら、都合が良過ぎる?」
ドモンはフォンスゥの姿勢に反し、開いた膝へ前屈みになった。低い声で投げられた問いに彼はわずかばかり首を傾げる。隣で落ち込んでいるらしき婚約者以上に自分らしくないことをしてしまった気がした。
「…いいえ」
フォンスゥの膝には水の入ったグラスが乗せられている。
「反省したところで、また明日には貴方の素敵な穀潰しをいじめるんですよ。分かっているのですけれどもね」
「飼主の機嫌を取るのがあれの存在意義ですから」
「自分の機嫌くらいは自分でとれるものと思っていたのですけれど、まったくの見当違いでした」
彼女はグラスを一気に呷り、システムキッチンへ返しに行った。ラグに小さな濃紺とゴールドの筒が落ちた。忘れたと言ってアオに持って来させるほど気に入っているらしかった。そこで言い争いになり、彼女は帰ってしまったのだった。
「落としましたよ」
持主が戻ってくるとテーブルにリップスティックを置いた。彼女は礼を言ってそれを手に取った。自分の物にもかかわらず、掌に転がして物珍しそうに眺めていた。
「会いたくない人に会いましたのよ」
「それは婚約者に言えるような間柄なのでしょうね?」
「あら、珍しい。妬いてくださっているのかしら」
ドモンは愛想笑いを浮かべた。フォンスゥのほうでも苦笑する。
「貴方の顔に泥を塗るような相手ではありませんわ。ゼリービーンズほどの小僧っ子ですから」
その口振りからかなり親しい人間であるような気がした。彼女は外面に対する穏和な気性と四方八方に好い態度を示し成り上がった。たとえ身内であっても外部の者を侮るようなことは言わない。しかしいくらか素面に戻ってきたとはいえまだ酔っ払いであることに変わりはなかった。
「分かりませんよ。最近の若者も侮れませんからね」
上面だけの会話をしてドモンはまた自室に戻った。父は悶え、息子を求める。性能の良い淫具は追い詰めたり、その寸前で引き下がったりして張りのある壮年後期の肉体を焦らし苦しめた。父想いの息子は遠隔操作で暴れては徐に休む無機物を止めた。
「父さん」
ベッドに腰を下ろすと義父は悩殺するような巨大な白桃と見紛う尻を振ってドモンに擦り寄った。この魅惑的な父も周りに媚び諂 い、リンゴを磨き、胡麻を擂って成り上がった。時にはこうしてライチのような瑞々しい肌を晒すこともあっただろう。ドモンはその肌に引っ掻き傷を作らないよう注意しながら桃肉に触れた。水を弾くような肌をしている。見た目も精力も、父の実年齢と比べると若々しい感じがあった。
「父さん、イきたいですか?それならおねだりしないといけませんよ」
父はベッドに寝転びでっぷりした腹を晒した。双つの小山と大山が分散され、わずかに平たくなった。左右に丸々とした膝を開き、腰を上げた。
「挿れてくれ!ワシの助平 穴に極太魔羅をずぽずぽしてくれ!」
「それだけですか?」
父は寝返りをうち上体を伏せ、下半身を高くした。クリームチーズのような尻が左右に揺れる。ドモンは微笑み、ベルトのバックルを外した。そこに極上のエサでもあるかのように家主の巨大な雌猫は飛び付いた。肉厚な舌が重みのあるドモンの雄を育てていく。
「あぁ……っ、ぅん……上手ですよ、父さん」
他のこの年頃の男たちはもう毛が薄くなっていたり色が抜けていたり、もしくは植毛したり鬘 を使っていたがこの自慢の、それでいて悩ましいまでに妖艶な父は豊かな髪をしていた。ドモンは口淫に浮かされながらその毛並みを整える。
噂によればドモンの実父はこの父の幼馴染であり恋人だった。しかし実父は女と結ばれ、共に死んだ。彼にはまったく記憶がなく、顔も声も知らず、喪失感を覚えたこともなかった。両親という概念にも疎く、女親がいる同年代の家庭に対しても不可解な念ばかりが募っていた。それよりもこの父が自分に恋人の面影を重ねることがなく、飽くまでも後見人としてしか接しなかったことに幼いドモンは苦悩した。それがドモンを屈折させたとさえいってよかった。
父の毛先を指で擦り、また手櫛を入れていくたび当時の鬱屈がこの瞬間にひとつひとつ放たれていく気がした。彼は数年、十数年前の自分に語りかけたいくらいだった。
「早よぅ、ほしい…!」
父は自ら尻たぶを開き、土留色の蕾で誘った。ドモンは婀娜 な父に感動の溜息を吐くと猛った雄の先を皺の寄った窪みに当てる。
「愛しています、父さん。誰よりも」
一呼吸置いて、一気に腰を前に出す。粘膜同士の強い摩擦と抵抗感に目の前が明滅した。巧みな腰遣いで快感を貪る。
「んほぉおっおおお!」
父の身体に電流が通ったようだった。果汁が黄桃のような唇から滴り落ち、シーツを濃くする。ドモンは官能の波に身を任せながら突然笑いはじめた。忌々しい奴等が消え、父を抱いている喜びをもう抑えていられない。
「父さん、父さん…大好き」
ぶよっとした背中にドモンは沈んだ。下半身が短い間隔で空間を叩く。
「んっぉっおっおっ!稚児 がデキる!孕ませてくれッ!ワシの子袋に稚児 汁出してくれぇ…!」
凄絶な興奮と憎悪が鬩ぎ合った。不本意な射精がはじまり、中で蠕動 する。しかし頭は嫌悪と怒りで爆発しそうになっていた。
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