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怒り

 キッチンから美味そうな匂いが漂ってきた。  煌生はソファから立ち上がると、キッチンへと足を踏み入れた。黙々と料理を続ける和馬の後ろ姿を見つめる。  随分とたくましい体つきになった。高校生の頃は、筋肉がほとんどなく、ひょろひょろの女みたいなか細い体をしていたのに。しかし、生まれつき持っている長いすらっとした手足と、スタイルの良さは健在だった。 「なんでお前なん?」 「……組長命令や」 「親父?」 「……理由は知らん」 「……なあ」 「…………」 「怒ってるん?」 「…………」  和馬は煌生の問いを無視して、皿を取り出し、炒めていた肉野菜をその上に盛り付けた。スプーンで味噌汁を1さじすくって口に運ぶと、火を止めて、味噌汁の入った鍋に蓋をした。そのまま料理に使った調理器具を慣れた手つきで洗っていく。 「カズ」 「馴れ馴れしく呼ぶな言うたやろ」 「これでしか呼んだことないし。それに答えてくれへんし。俺の質問。」 「…………」 「なあ、カズ」 「…………」 「かーずちゃん」 「ああっ、もう、うるさいっ!!」  和馬が、大声で怒鳴って、手に持っていたスポンジとフライパンを荒々しくシンクへ投げ入れた。キッと、煌生の方を睨み付けるとマシンガンのように話し出す。 「ああ、怒っとるよ! 死ぬほど怒っとるよ!! 怒りなんてなぁ、もう飛び越えて、殺したろか思うとるわ!! 俺に何も言わんと出ていきよって! フラフラ遊び呆けて! そのお前の尻拭いを親父も俺らもどんだけやらされたと思うてんねん!!」 「……ごめんて」 「はあ?? なんやその軽い謝罪は!! そんなんで済むようなことちゃうやろ?? 大体なんで親父もお前なんか連れ戻したりしたんや! もう、放っておいたらよかったやんか!!」 「いや、それを俺に言われても……」 「ほんま……帰ってこんかったらよかったんや……」 「…………」 「お前なん……」  勢い良く話していた和馬が、急に声を小さくさせて、俯いた。

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