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縮まらない距離 ①

 それから1週間に一度、和馬が訪ねてくるようになった。夕方近くに訪ねてきて、部屋が汚れていれば掃除をし、洗濯をし、最後に夕飯を作って帰っていった。  会話はほとんどなかった。煌生が話しかけても和馬が無視するからだ。ヘルパーに関する、必要最低限のことにしか反応してくれなかった。  めっちゃ、怒ってはるわ。  まあ、無理もないか。そう思って、今日もフローリングの床に座って黙々と洗濯物を畳む和馬の後ろ姿を見ながら思う。  素直じゃない和馬を苛めたくなって、ついつい無理やりヤろうとした。いや、ヤろうとはしてなかったか。ただ、あいつが傷つくようなことを言ってやりたかっただけだ。その目論見どおり、和馬は傷ついた。だが、その傷は思ったよりも深かったようだ。そしてあの時のあの和馬の瞳を見て、煌生は後悔した。あんな風に和馬と距離を縮めようとしたって、効果がないことは分かっていたのに。 「カズ」  試しに名前を呼んでみる。 「…………」  やっぱり、無視や。 「腹、減った」  そう言うと、洗濯物を畳む手を止めて、和馬がこちらを振り返った。 「先、飯作るわ」  立ち上がって、キッチンへと消えていく。その後に続いた。  一緒にキッチンに入ってきた俺を認めると、あからさまに和馬が嫌な顔をした。 「あっちいっとってくれへん? 気が散るわ」 「なんで? 警戒してるん?」 「……何が?」 「また俺に押し倒されるんちゃうかって」 「別に……」  そこまで言って、しまった、と思う。またやってしまった。どうしても和馬を困らせたくなるのだ。そんな困った顔を見て、可愛い、と思ってしまうのだ。  俺、昔から変わらへんな。  そう思う。和馬と過ごした少年時代。煌生は我儘放題だった。しゃーないなぁ、と和馬が苦笑いしつつも煌生の無理な要望を呑んでくれるのが嬉しくて。自分に従順な和馬が可愛くて。どうしても捻くれた言動をしてしまうのは、どうやらあの時のままらしい。 「ほな、向こうで待つわ」  これ以上絡んでまたキレられても面倒なので、一旦引き下がってリビングへと戻った。和馬の視線を感じたが、気付かないフリをした。

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