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傷と謝罪

 和馬の体格に合わせ、少し小さめの長袖のTシャツを寝室のクローゼットから選び、リビングへと戻った。上半身裸になり水分を拭き取っている和馬の背中を見て、思わず足を止める。  煌生の記憶にはない無数の傷が、和馬の上半身に広がっていた。深い傷から、浅い傷まで。浅いと言っても跡に残るくらいなので、その時は結構な傷を負ったに違いない。  その傷たちを眺めながら、和馬へと近付いた。その気配で和馬が振り返る。無言でTシャツを差し出すと、少し怪訝な顔をしながらも、ありがとう、と小さく呟いてそのTシャツを受け取った。  和馬がTシャツを着ようとした瞬間。そっと和馬の背中の傷に触れた。びくり、と和馬の体が波打った。その傷を指でそっとなぞる。 「お前……何してんねん」 「…………」  和馬は前を向いたまま何も言わなかった。 「こんなにしてもうて。なんで自分のこと、もっと大事にせえへんねん」  和馬はしばらく黙っていたが、やがてぼそりと答えた。 「俺のことはどうでもええねん。ただ……親父とあんたの家を守りたかっただけや」 「…………」 「お前にとっては胸くそ悪いくらい嫌な家やったかもしれんけど。俺にとっては天国やったから」 「…………」 「お前がおって、親父がおって、仲間がおって。この幸せが続くんやったら、どんなことでもやったろうと思うとった」 「…………」 「それやのに。あんたは、出ていきおった。全部捨てて」  俺を捨てて。そう心の声が聞こえた気がした。 「それは、違う」 「何が違うねん!! 連絡1つよこさんと問題ばかり起こして、あんたは捨ててすっきりしたかもしれんけどなぁ、結局、お前は組に面倒みてもろうとったんや。自由になったよう気になっとっても、あんたはいつも組に守られとったんや!」  結局は籠の中の鳥。そんなことは分かっていた。 「そんな親父の愛情も分からへん、そんな奴、無理やり連れ戻したって同じや!」  和馬の体が震えていた。後ろ向きでも分かる。和馬は泣き虫だ。昔も今も。  後ろから和馬を抱き締める。 「やめぇ……」  小さく呟いて、抵抗する仕草を見せたが、その弱々しい抵抗はすぐに止んだ。和馬を包む両腕に力を込める。 「……ごめん」 「…………」 「1人にして、ごめん」 「……あほぉ……」  そのまま、しばらく和馬を抱き締めたまま動かなかった。腕の中で、和馬が子供みたいに声を上げて泣いている。逞しくなったはずの体なのに、細くて、頼りなくて、あっけなく壊れそうだ。  いつまでもこうしていようと思った。  和馬が落ち着くまで。和馬が泣き止むまで。  和馬が望むのなら。

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