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軟化

 その日以来、和馬の態度は少し変わった。 「カズ」 「……何」  無愛想だが、返事を返してくれるようになった。 「暇なんやけど」 「……そんなん、知るか」 「映画も見飽きたし、本は死ぬほど読んだし、ゲームも4回ぐらいエンディング見たし、何もすることあらへん」  この前、和馬を抱き締めてから。一応自制していた煌生の欲望が再び膨らみ始めていた。和馬に触りたい。和馬に構ってほしい。 「カズ」 「なんやねん」  煌生を適当にあしらってせっせと部屋の掃除をしている和馬に再び声をかける。 「ヤろ」 「……何を?」 「セックス」 「はあああ???」  和馬がこの上なく不機嫌な声を上げた。床に散らばっていた本を拾い上げる手を止めて、呆れた顔でこちらを見た。 「ほんま、頭おかしいんちゃうか。なんでそうなんねん」 「やって、暇やし。お前が来るようになってから、俺、自分でしかしてへんねんで」 「一生自分でやれや」 「そんなんできるわけないやんっ。20代の男の性欲なめんなやっ」 「俺かて20代やっ!!」 「ほんなら、分かるやろ?? この俺の欲求不満な気持ち!」 「いや、分からへん」 「…………」  和馬はふいっと顔を背けて再び本を拾い始めた。全く相手にしてくれない和馬に、苛々と欲がつのっていく。 「ほな、カズ、口でしてくれや」 「……やから、なんでそうなんねん」 「昔ようしてくれたやん」 「…………」  そう言った途端、和馬の顔が耳まで赤くなった。どうやら、その昔のことを思い出したようだった。 「お口でして~って言うたらしてくれたやん、しゃーないなぁって」 「……昔の話やろ」 「俺はあん時と変わってないけど?」 「…………」  ちらっと和馬がこちらを見た。その視線を受け止めて、じっと和馬を見つめ返す。 「あん時の、カズだけしか見てへん俺と変わらへんけど?」 「……ようそんなん言えるな。家出てから、お前、何人抱いとんねん」 「抱いたけど。人数なん覚えてへん。あんなんただの性欲処理やから。覚える必要もないし、興味もない」 「お前なぁ……ほんま、最低やな。下に関しては」 「ちゃう。お前は勘違いしとる」 「は? 何がやねん」 「俺が欲しいんはお前だけや」 「…………」 「お前が手に入らへんから、他で代用してただけや」 「じゃあ、なんで逃げたんや」 「…………」 「俺が欲しいんやったら。なんであん時、逃げたんや」 「……反抗期やったから」 「はあ?」  和馬が、繋がるのではないかと言うくらい両方の眉を寄せて煌生を睨んだ。 「アホか。付き合いきれんわ」  和馬はそう言って、掃除機のコンセントをプラグに差し込むと、これ以上は話をしたくないという意思を全開にして、電源ボタンを押して掃除機をかけ始めた。

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