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覚悟★

 別に。襲ってもええんやけど。  そしたら、カズまた怒って口利いてくれへんやろうしな。  自分はただ、和馬のことが可愛くて仕方がないのに。犯したいくらいに。  そこまで考えて、煌生は思う。自分の愛情表現はやはりどこか人と外れているのだろうか? 『しゃーないなぁ』  ちょっとはにかんだように微笑んで、煌生の両脚の間に裸ですり寄ってくる、少年の日の和馬を思い出す。歯を当てないように気を付けて、懸命に口を動かす姿が堪らなかった。  2人がこんな関係になったのは、自然なことだった。自然過ぎて、何も疑問に持たなかった。男同士だったことも。一応、兄弟として育ったことも。まるで磁石が吸い付き合うように、2人きりの時はいつもくっつき合っていた。まあ、ほぼ煌生が我慢できずに事を始める場合が多かったのは否めないが。 「ほな、帰るから」  その声ではっと我に返る。妄想に耽っている間に、どうやら和馬は掃除を済ませ、夕飯の準備も済ませたようだった。 「おん……あ、ちょお、カズ、忘れもん」 「は? そんなんあったか?」 「おん、ちょお、来て、ここ」  そう言って、煌生は寝転がっていたソファのクッションと背もたれの間を指さした。怪訝な顔をしつつも、和馬がこちらに近付いてきて、煌生が示した場所を確認しようと覗き込んだ。 「うわっ」  その瞬間を狙って和馬の両肩を掴み、そのまま体を反転させてソファに押し倒した。 「何すんねんっ!!」  いつものごとく、怒りを表わす和馬を無視して、チュッと可愛くキスを落としてやった。途端に、顔が赤くなる和馬に、お前はどんだけウブやねんな、と笑いたくなる。 「バイバイのキス。忘れてるやろ」 「……ほんまに……」  和馬は呆れて物が言えないようだった。 「もっと濃い~のしてもええねんけど?」 「……アホか。離せ」 「……そんなん言われると、燃えるの知ってるやろ?」  煌生は和馬の返事を待たずに、再び唇を重ねた。何度か和馬の上唇と下唇を順に吸ってから、ゆっくりと舌を入れる。 「んんっ」  最初は舌を押し返したり、煌生の両肩を叩いたりして抵抗を見せていた和馬だったが、煌生が時間をかけて和馬の舌を追いかけて捕まえると、観念したかのように力が抜けていった。  優しく歯裏を撫でていく。時々唇を吸いながら、舌を追い、捕まえ、絡めた。和馬が、それに応えて、舌を絡め返してきた。  それが合図となって、動きが激しくなる。この感覚。この快感。和馬としか味わうことのできない、何とも言えない高揚感。 「は……あ……」  和馬が少し苦しげな声を上げた。煌生はその声に体が疼くのを感じた。和馬を抑えていた右手を外して、そっと和馬の服の中へと差し入れる。が。ぐっと、強い力で両肩を押された。2人の唇が離れる。  至近距離で見つめ合った。 「あかん」 「……なんで?」 「俺はまだ、許してへん」 「やけど……受け入れたやん、キス」 「…………」 「本気で抵抗したかったんやったら、この前みたいに、噛み付いたら良かったやん」 「…………」  返答に困っているのか、和馬は何も言わずに黙り込んだ。自分でも混乱しているようだった。 「とにかく……今は、嫌や」 「……ほな、いつだったらええねん」 「そんなん、分かるか」 「なにそれ。もっと簡単なことちゃうの? 俺としたいか、したくないか」  俺と一緒におるか、おらんか。  少しの間、沈黙が続いた。和馬はじっと煌生の目を見続けていたが、やがて口をゆっくりと開いた。 「今のお前と、ヤりたない」 「…………」  和馬はそれだけ言うと体を起こし、煌生の腕の間をするりと抜けた。その足でそのまま何も言わずにリビングを出ていった。  扉の閉まる音を聞いた後、煌生はソファに座り直し、はあっと溜息を吐いた。誰もいなくなった静かな空間で、ぼうっと天井を見上げて思う。  もう、限界やな。  自分はもう、高校生でもない。若気の至りなんていう言葉が通用する歳でも立場でもない。これ以上逃げ回ったところで、逃げ切れるわけでもない。  今の自分は和馬が求めている自分ではない。そんなことは分かっている。  どうやら。ずっと避けてきた面倒臭い問題に対峙しなければならない時が来たようだ。

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