4 / 62

第4話 表向きは『今代初の男のお妃候補』。①

 俺と上司が揃って勢いよく視線を向けると――そこには宰相閣下と、王弟殿下が立っていた。付き人達は、外で待っているらしい。護衛がいないのは、人払いをしたというのもあるのだろうが、王弟殿下ご自身が、この国で一番強いと評判だからなのかも知れない。  冷や汗がダラダラと浮かんでくる。そんな俺を、二人はじっと見た。 「ご、ご、ご機嫌麗し……く……」  上司が何か言おうとしているのが分かったが、完全に震えていて、上手く声帯が動かないらしい。俺は何を言って良いのか分からない。迂闊な発言をしたら、それこそ死刑に近づいてしまう。  宰相閣下は何も言わずに腕を組み、それから王弟殿下を見た。王弟殿下はその視線を受け止めてから、最初に上司、次に俺を見た。 「働き者だという噂は聞いていたが、ちょっと働きすぎたな」  王弟殿下はそう言うと、俺を見て目を細めた後、深々と溜息をついた。それを見守っていた宰相閣下が、一歩前へと出た。 「――有能な者を、この王宮は求めている。よって、その知恵をさらに、この国のために生かしてもらいたい。そこで、新しい職場を用意した。オルガくんのために」 「え?」  淡々と喋っている宰相閣下を、俺は呆然と見た。  ――俺のために?  ――新しい職場?  もしかして、左遷だけで処分は終わりか?  俺は非常にそれを期待した。

ともだちにシェアしよう!