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第5話 ②

 すると、俺の前に、宰相閣下が一枚の羊皮紙を差し出した。 「本日付で、後宮に入ってもらう」 「――へ? 俺、男ですけど」 「分かっている。優秀な血を残す事に期待しているわけではない」 「はぁ?」 「後宮は、一度入ると一生出る事は出来無い。お前以外は、全員女性で、国王陛下のお妃様やその候補だ」 「……ん? は、はい。当然ですよ、ね? だって、後宮はお世継ぎを得るための……――俺だけ、男というのは、ええと」  陛下が異性愛者だから、だろう。この国では、同性愛もそう珍しくはないが、異性愛者の方が多い。それに同性の場合は、子供が生まれない。国王陛下は後継が必要なのだから、男が妃になるというのは、ほとんど無いのだ、歴史的に見ても。 「後宮にも文官職が?」 「いいや。妃候補の一人として、狭い部屋で暮らしてもらう事になった。一生涯。今回の件、他言されては非常に困る上、有能な者に国外逃亡されるようなリスクも回避しなければならないからな。ただし後宮は陛下のための場であり、万が一お前の種が混ざっては困るので、普段は鍵をかけ、扉の前には監視を置かせてもらう。一生、な」  宰相閣下が視線を逸らしながら言った。いつも堂々としておられるから珍しい姿だ。

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