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第8話「すみません、あのー、監視の人!」①

 ――三時間後。 「……暇だなぁ」  椅子から寝台に移動して、寝転んだまま俺は呟いた。腕時計があるから、何とか時間は分かる。しかしやる事が何もない。昨日は一日熟睡し、今朝は働く前だったため、体に疲労もない。心臓だけは疲れきっていたが、死刑を回避したと分かってからは落ち着いている。 「……」  このままずっと暇な一生を送るのか。そう考えながら、俺は扉を見た。そしてふと思い立った。 「すみません、あのー、監視の人!」  名前を知らないので、俺は率直に呼んだ。すると薄い扉の向こうから咽せた気配が届いた。 『人聞きが悪い事を言うな。護衛は、護衛としてここにいるんだ』 「護衛さん、あの!」 『トイレか? トイレは奥の壁の壺のようだぞ』 「そうじゃなくて、護衛さんも、もしかして俺と一緒で、一生そこに立っていなければならないのかと思いまして」 『――は?』 「俺は座ったり横になれるけど、ずっと立ってなきゃいけないって、俺よりも暇そうだなと」 『……』 「お互い暇ですねぇ!」  ならば会話が生まれても良いではないか。我ながら名案だと思いながら、俺は告げた。すると咳払いしてから、護衛さんが扉の向こうから言った。 『――護衛にはきちんと休憩時間も交代時間も、帰宅する権利も、鍵付きのトイレに行く許可も、温かい食事を毎日三回とる権利もある! お前と一緒にするな!』  心なしか、怒っているような声音だった。それを聞きつつ、扉の前で、俺は腕を組んだ。  ――きちんと反応が返ってくる。  俺の予想だと、護衛こと監視担当者が、きちんと会話に応じるまでには、数日から数週間を要するはずだったのだ。どうせ暇だから、俺は、『監視に日常会話をさせるゲーム』をしようと勝手に考えていた次第である。しかし、手応えがなかった。呆気なさすぎた。これでは、何日で口を開くかという賭けの対象にすらならない……。 『あ、そ、その……言いすぎた……悪気は無かったんだ!』  その上、俺の沈黙を、俺が落ち込んだと曲解したようで、焦る声が響いてきた。俺は吹き出しそうになったが、こらえた。彼は根が良い人なのだろう。

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