16 / 62

第16話 ⑤

 そこにいた人物を見て、俺は凍りついた。声までは記憶していなかったが、さすがに顔――というよりも、歴代の国王陛下が身につけていた王冠と、上質な衣やアクセサリーに見覚えがあったのだ。キラキラと輝いている。どう見ても、本物だ……!  焦って俺は、膝をついた。固い部屋の床の上で、必死で頭を下げた。 「理解してもらえたようだな」 「ほ、ほ、本当に申し訳ございませんでした……」  全身から血の気が失せていく。まさか、本物だとは思わなかったのだ。 「立て」 「……」 「今から別の部屋に移ってもらう」 「ま、まさか、本物の牢屋へ……?」 「――それも良いな」 「俺、俺、ここが良いです!」 「冗談だ」  俺を見ると、ルカス……こと、国王陛下が口元にニヤリとした笑みを浮かべた。声が同じなのだから、本人で間違いはない。俺の想定だと、童貞で恋に対する幻想をこじらせていたルカスは、金色の髪と海色の瞳をした、甘い顔立ちのイケメンであり……扉の後ろには、国王陛下専属の近衛騎士団の人々がズラッと並んでいる。本物の監視だったらしき、俺に短刀を渡した青年は、傍らでこちらを見て、ひきつった顔で笑っていた。 「俺はどこに行く事になるんですか?」 「ああ。何やら俺は、モテないコミュ障らしいから、恋が怖くてなぁ」 「根に持ってる……!」 「お前に教えてもらおうと思ってな、オルガ。先程も話した通り、別段俺は、結婚しなくても構わない立場に居るんだ。する場合も、男を選んでも何の問題も無い――どころか、都合が良いんだ。考えてみると」 「……」 「一生この部屋で暮すのと、俺と雑談可能な、ここより少しましなきちんとした部屋で暮すのは、どちらが良い?」  それを聞いて、チラっと俺はルカスを見た。顔を上げる。

ともだちにシェアしよう!