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第24話 ③

「そうなんです! だから、350万なんていう、一般庶民の年収みたいな額はありえません! しかも、一本に!」 「ここにいる者は皆貴族で、知識としてしか金銭感覚がなく、雑草についての知識は特に欠如しているんです。あ、私はルカス陛下妃補佐官室筆頭補佐官のデイルと申します。よろしくお願いします、オルガ様。改めまして、レスト様」  俺はおずおずと頭を下げた後――レストを見た。敬称を疑問に思ったのだ。どう見てもレストの方が若いし、役職はデイルさんの方が上だ。やはり伯爵家の人だから『様』なのだろうか? 「いやぁ、さすはオルガ様! 優秀!」  しかし目が合った結果、レストにはそう言われただけだった。馬鹿にされている気持ちになった。こんなの、子供だって分かる……ああ、平民の場合は、か。 「え? 貴族だって、文官府の人は知ってた気がし……」 「いえいえいえ、オルガ様の着眼点が違うんですよ!」 「レスト、それ本気で言ってる?」 「二割くらい」 「おい!」  思わず俺がムッとすると、レストがクスクスと笑った。この笑い方は、彼のクセなのかもしれない。その後俺は、正妃用の執務机に案内された。そして――そこから地獄の書類仕事が始まった。が、先週までの日々を思えば、どうという事もない。  仕事に貴賎はないわけではあるが、あちらは統計が必要だった。しかしこちらの仕事に必要なのは、一般常識だったのだ。その他は、共通の事柄――ハンコをひたすら押すという作業である。確認してはハンコを押し、確認しては羽ペンでサインをし……だが、その内容は、『南館の二階の窓から見える花壇に植える花の値段(向日葵)』だとか『東の宰相府別館の四階の図書館に入れる新しい書籍の精査(絵本)』といったものだったのだ。全てに驚くような高額が記載されていたので、俺は常識的な値段に修正し、修正印をひたすら押した。周囲はそんな俺を感動したように見ていた。

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