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第27話 ②
「そのジュースで合っていたか?」
「だからこれはお酒です!」
ムッとして俺は声を上げたのだが、美味しそうな料理の香りで、頬は緩んでいたから説得力はないだろう。そんな俺に対し、陛下が喉で笑った。
「気楽に、食事を楽しんでくれ」
「有難うございます」
「もっと気安い口調で良いぞ。最初の部屋の扉越しに、話していた時のように。一応俺達は、結婚するわけだからな」
そう言ってワインを飲んだ陛下を見て、曖昧に頷いてから、俺はまずはサラダを食べた。
「食べ方に品があるな」
「マナー研修のおかげで」
大きく俺が頷くと、ルカス陛下が苦笑した。それからゆっくりとワインを飲み込むと、改めて俺を見た。
「少し、話をしよう」
「何を?」
「――俺は、確かにこれまで、恋愛などはしてこなかったが、ぜひこう言う相手と結婚したいと考える理想像があったんだ」
「つまり妄想をこじらせちゃってたんですね!」
「違う!」
ルカス陛下は咳き込んでから、ワイングラスを置いた。そしてナイフとフォークを手に取ると、テリーヌを切り分け始めた。
「俺は、政治に口出しできない馬鹿を求めていた。無論、傀儡にされるような――貴族の後ろ盾がある人間も好ましくはなかった。だが、妃業務を考えるに、仕事はできないと困る」
それを聞いて、思わず俺は、半眼になった。
「何その要求。高すぎじゃ?」
「その通りだ。だが、お前は馬鹿な部分を含めて全てクリアしている」
「失礼だな!」
「黙っていれば、外見も真面目に見えるしな」
その後食事を終え、俺は席を立った。日常会話は意外と楽しい。今もまだ緊張感は多少残っているが、ルカスと話しているとどことなく気楽だ。国王陛下を相手に気楽というのも不敬だろうが。
「ん?」
それから俺は、レストに付き添われて部屋に戻るつもりだったのだが――何と隣を、ルカス陛下が歩いている。第四塔まで彼はついてきた。
「あの、陛下」
「なんだ?」
「どこに行くんですか?」
「オルガの部屋だろう?」
「どうして?」
ベッドはひとつしかない。かなり大きいが。俺の声に、心なしか困ったようにルカス陛下が笑った。
「俺はお前に一目ぼれをした事になっている。既にオルガは俺の正妃候補だ。後宮のお前の部屋で眠らないわけにはいかないだろう。周囲が不審に思う」
「え。一緒に寝るんですか!?」
絶対に嫌だ。安眠できそうにないではないか。思わず口を半分開けて、俺は虚ろな瞳になってしまった。
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