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第28話 ③
「不満そうだな」
「周囲に不審に思われないように、ひっそりとご自分の寝室に戻る裏口とか、後宮には存在しないんですか?」
「それはまだ話せない」
「絶対にあるだろう!」
思わずそう告げると、ルカス陛下が腕を組んだ。
「お前は毎週末、なけなしの金で、添い寝コースを購入していたようだが」
「そ、それが、何か?」
「その際の娼館の従業員と比較して、俺は頼むに値しない存在か?」
「え?」
「外見・上辺の性格・服装――比較してみろ。しかも値段は、0デクス」
それを聞いて、俺は目を見開いた。
ルカス陛下の容姿と服装は、そりゃあもう、娼館の入口に並んでいた似顔絵や出入り口から見かけていた実物よりも、素晴らしいだろう。ちょっと目を惹く。性格だって、俺の添い寝コース担当者達は、仕事終わりで疲れていたのもあるのだろうが、結構……俺に対して酷い扱いは多かった。ルカス陛下を意地悪と評するなら、彼ら・彼女らは楽しい毒舌だった。その上で、1万デクスは必ずかかったが、ルカス陛下はプライスレス……!
しかし、そう言う事ではない、大問題がある。
娼館の人々は、仕事だ。つまり、添い寝コースをしてくれる立ち位置の人だ。
ルカス陛下とは立場が違いすぎる。
「国王陛下が横に居たら、落ち着いて眠れません!」
「国王陛下ではなく、婚約者と考えてくれ」
「それは無理」
「何故無理なんだ?」
「昨日の今日で、まだ陛下について俺はさっぱり知らないのに、いきなり婚約者と言われても……」
俺はそう口にしてから、歩きつつ溜息を零した。
「平民は基本、自由恋愛だから。婚約は、恋愛してからするものです」
「――奇遇だな。私も常々、婚約してから恋愛をしろと促されて、困っていたんだ」
「では、ぜひ、婚約破棄を!」
「ん? オルガ以外は、無事に婚約の一歩手前で全員後宮から帰す事が出来たぞ?」
「俺は!? 俺は、俺の話を……」
「俺も俺の話をしている」
ルカス陛下は楽しそうに笑っている。それから視線を少し上にあげて、笑みを深くした。
「オルガとの婚約は破棄をしない。最低一年は、妃予算の件もある」
「あ」
俺は、昨日喜んでいた宰相閣下の顔を思い出した。確かに、俺が現在の状況になったのは、ついうっかり不正を暴いてしまったからだ。しかも俺は、ついうっかり、本日も裏金作りのダミーらしい書類を手がけてきてしまった。まずい……これでは、暴いても暴かれても、俺も罰を受けるだろう。だが……妃候補をしている間は、重い刑罰――死刑は無いか。無いよな?
「……確かに、娼館にルカス陛下が一般人として働いていてプライスレスなら、添い寝コースを土下座して頼む」
「そうか。きちんとした美醜概念を持っているようで、安心した」
そんなやり取りをする内に、俺達は、第三塔へと到着した。
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