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第29話 【8】「陛下の方が、俺よりも経験値が低いじゃないか!」①

 二人で眠る事になった寝台に、取り敢えず俺は腰掛けた。ルカス陛下はソファに座って書類を眺めながら、今度は琥珀色のウイスキーをロックで飲んでいる。時折氷が立てる音を耳にしながら、俺は複雑な気持ちになった。  何せ――国王陛下の添い寝コースだ。  恐れ多いといえば、それはそうなのだ、が……節約家の俺の内心は、計算に熱心になっていた。今後毎日、これまで週末にかかっていた添い寝代がかからない上で、人肌がそこにあるのだ。妃業にお給料は出ないかもしれないが、生活費もあまり自分で支払う必要は無さそうだ。まだその辺の細部は聞いていない。急展開過ぎた事と、今回の件は、元を正せば処分のやんわりとした一形態だったからである。  その時、コトンと音を立ててグラスを起き、陛下が立ち上がった。  そうして寝台まで歩み寄ってくると、まじまじと俺を見てから、上がってきた。  慌てて俺も上に座る。そんな俺の前で、くるりと背を向けると、陛下が言った。 「寝るか。おやすみ」 「おやすみなさい」  俺は答えたが――これでは、添い寝ではない。巨大な寝台には距離もあるし、単純に二人で横になるだけだ。やはり添い寝コースとは趣が違う。何しろ、腕枕ではないのだ。まぁ、現実はこんなものだろうか。  そう考えて、俺も眠る事にした。疲れが一気にこみ上げてきたのである。当初こそ、緊張して眠れないかもしれないと心配していたが、毛布をかけてすぐ、そのまま俺は寝入った。  ――翌朝。 「ん」  瞼を開けた俺は、最初、何処に居るのか分からなかった。目の前に、厚い胸板がある。確認しようと体を起こそうとしたら、がっしりと背中に腕が回っていたため、身動きが出来なかった。二度瞬きをしてから視線だけを上げて――俺は一気に覚醒した。  俺を抱きしめて、ルカス陛下が眠っていたからである。伏せられている端正な目を見て、思いの外まつげが長いなと考える。完全に爆睡しているらしく、健やかな寝息が聞こえる。 「……」  動けないので、俺は陛下の綺麗な寝顔を眺めていた。陛下は体温が高いらしい。それにしても力が強い。俺を抱き枕か何かと、勘違いしているのかもしれない。そのまま暫く見守っていると、うっすらと陛下が瞼を開けた。そしてぼんやりと俺を見た。目が合う。 「……オルガ……? ……っ!!」  そこで漸く、ルカス陛下は覚醒したようだった。バッと勢いよく俺を離すと、慌てたように距離を取ってからこちらを見た。そのまま上半身を起こし、焦ったように何度も唇を開閉させている。瞬時に陛下は赤面した。 「わ、悪い……寝ぼけていたらしい」  その動揺っぷりを見て、俺は思わず気分が良くなった。

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