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第30話 ②
「やっぱり陛下の方が、俺よりも経験値が低いじゃないか! 真っ赤だ」
「う、うるさい!」
「抱きしめられちゃった」
「黙れ!」
そんなやりとりをしてから、俺達は、揃って朝食をとった。本日は、俺の部屋へとレスト達が運んできてくれたのである。本日以外も、この部屋か一階で食べる事になるようだった。もっとも食事に関しては、打ち合わせなどを兼ねて大臣達などと陛下が食べる事もあるそうなので、必ず一緒だというわけではないようだった。
さて朝食後――ルカス陛下とは別れて、本日も俺はレストと一緒に、第四塔へと向かった。するとデイルさんが待ち構えていた。俺は扉を開けた瞬間に、最初、目を疑った。
デイルさんの背後には、昨日と同じくらいの量の仕事の山が見えるのだ。昨日全て片付けたはずなのに、また、新たな書類が雪崩を起こしそうになっていたのである。え? どこから出てきたんだろうか……?
「お待ちしておりました! 急ぎのお仕事が!」
「見れば分かります」
「え? たった今、宰相府から伝令が来たのですが、もうお聞きに?」
首を傾げながら、デイルさんが一枚の羊皮紙を俺に見せた。伝令に関しては知らないので首を振り、俺は視線を向けた。
そこには、『フェルスナ伯爵領への視察について』という文字が並んでいた。
「国王陛下のご視察に、初めて王妃様のお仕事として伴われるそうですね! いやぁ、オルガ様ならばきっと完璧にこなされる事でしょう!」
デイルさんの声に、俺は息を呑んだ。視察なんて、初めて聞いたからだ。驚いてレストを見たが、こちらは知っていたのか、笑顔を変えない。いつもの通りだ。
「そこで、本日は、まずは次の視察時の――その後は、普段からその他の外交時や夜会の際にお召になる服の予算案等を、取りまとめるお仕事を!」
それを聞いた俺は、二つの事に驚いた。王妃が自分で予算を組むものだったのか……衣装……と、いう点と、もう一つは、その衣装代に関する書類だけで部屋が埋まるのかという衝撃である。
「早速取り掛かりましょう! なお、次の視察の品に関しては、午後には仕立て屋の者が参りますので、午前中には全てを終わらせたいのですが」
「う……」
昨日よりも速度を上げなければならないだろう……。俺は顔を引きつらせそうになったが、必死で笑顔を浮かべた。こうして本日も席につき、俺はデイルから受け取った紙を見た。
「……シャツ一着で……750万デクス……」
俺はちらりとレストを見た。今回に関しては、俺の方の一般常識が当てはまらないのだ。俺には、貴族の服の平均額の知識が無い。文官の制服は支給品だったので、上質だが額は知らなかった。それに、こちらにも昨日のように、何か含まれている可能性もある。
「レスト、これは、高い? 安い?」
「僕の私服のシャツより、少し高い程度ですね」
クスクスとレストが笑っている。室内を見渡すと、皆静かに頷いていた。
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