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第31話 ③

「じゃあ、もう少し値段を下げても良いって事か?」 「どちらかといえば、上げても構わないのでは? 初の視察ですし」 「そういうもの?」 「全体的な予算との兼ね合いもあるとは思います」  それを聞いて、俺は他の書類を手に取った。すると見本として、過去の王妃様達の衣装代の一覧がついていた。……目が飛び出そうなほどの高額だった。 「……え、えっと。これ、さ? 本当に貴族の標準なのか? そうなんですか?」  平民の俺とは、格が違った。声が震えてしまう。そこで、はたと気づいた。 「あ、でも、俺は男だし、ドレスよりはお金がかからないのか。特に、アクセサリーはそんなにいらないだろうし。俺は頭に花とかつけないからな――……つけないよな? ま、まさか、ドレスの一覧が見本にあるって、俺は女装とかしないとならないの?」  焦るような声音を俺が放つと、レストが腕を組んだ。そして小さく吹き出した。 「女装は必要ありませんが、お好みでしたら」 「好まない、好まないです!」 「順にお答えすると、貴族平均よりは無論少し高額です。理由は、やはり王家の皆様は外交等で他国の方とお会いする機会が多いので、あんまりにも安っぽい出で立ちをされていると、国が貧しいのかと勘ぐられてしまいますので」 「なるほど」  頷き、その後この日は、レストや補佐官の人々に教わりながら、俺はサインをしていった。仕事を一区切りさせたのは午後になってからで、仕立て屋さんが訪れたのは二時過ぎの事だった。  そこから俺は、着せ替え人形のように、あれやこれやと渡された服を着せられた。俺にはどれも似たりよったりのシャツに見えても、細部のデザインが違うのだと主張され、一着一着身にまとっては、その部屋にいる全員に唸られた。上着も同様だった。途中でメガネを外され、服により似合いそうな髪型にするとして弄られた。居心地が悪すぎる。俺だって普段着を買うのは好きだ。だが俺が買うのは市販品ばかりであり、自分のサイズを測定して作ってもらった事など、ほとんどないのである。  それらが終わったのは夜だったが、本日の書類の山は補佐官の人々が俺よりも沢山片付けてくれたので、無事に収まった。  この日――ルカス陛下と俺は、第三塔の自分の部屋で合流した。  着替えたままの状態で俺が部屋に戻ると、ルカス陛下が座っていたのである。 「遅かったな。夕食は今こちらに運んでくると――……」  俺を見てそう言ったルカス陛下は、途中で口を止めた。そして、俺の頭からつま先までを、二度じっくりと見た。 「童顔だとしか聞いていなかったが、そうしていると、思ったよりも、艶があるな」 「艶?」  レストに首元のリボンを渡しながら、俺は聞き返した。 「な、なんでもない!」  するとハッとしたような声を出してから、ルカス陛下が顔を背けた。しかし疲れていたので追求する気分にもならず、俺はその後、食事をして入浴し、直ぐに眠る事にした。

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