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第32話 「俺、抱き枕サービスをやろうかなぁ」①

 その夜も、俺達はかなりの距離を置き、ルカス陛下は背中を俺に向けて横になっていたと思う――が、朝。俺は陽の光を感じながら静かに目を開けて、ぼんやりと瞬きをし、今日は余裕を持ってルカス陛下の顔を見た。本日も陛下は、俺を抱きしめて寝ている。寝相が悪いのだろうか。熟睡しているらしく、健やかな吐息が響いてくる。これでは、俺が抱き枕サービスに従事している気持ちにさせられる。  しかし国王業は、妃業とは比べ物にならないくらい多忙なのだろう。いつも起きている時は、余裕そうな顔しか見ていないが、朝眠っている姿を見る限り、疲れている風だ。 「ん」  その時、ピクリとルカス陛下が動き、ゆっくりと目を開けた。それからぼーっとしたように俺を見た後――再び目を閉じた。あ、二度寝の危機だ! 「陛下! おはようございます!」 「もう少し眠らせ……――!!」  そこで陛下が飛び起きた。勢いよく双眸を開くと、俺をじっと見て、唖然としたように唇を震わせた。その後勢いよく俺を腕から解放すると、代わりに陛下は毛布を抱きしめて顔を覆った。 「すまなかった……悪い……ああ、もう、嘘だろう、どうして俺は……俺は一体、いつ、どの段階でお前を抱き枕に……」 「俺、抱き枕サービスをやろうかなぁ」 「……オルガ。お前は、いつから起きていたんだ?」 「五分前くらいです」 「何故その段階で、俺を起こさなかった?」 「え? いやぁ、お疲れなのかなと思って。眺めてたんだ」 「気遣いは有難いが、眺めて……ああ、自分が恥ずかしい……」  本日もルカス陛下は真っ赤である。朝になると余裕が消える陛下が、面白く思えた。その後俺達は、レストを始めとした侍従の手で着替えた。本日の朝食は、宰相閣下も交えて、三人で食べる事になっているとの報告を受けた。

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