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第40話 ②
その後は、フェルスナ伯爵は再びルカス陛下と話を始めた。助け舟を出された気分で、俺はホッとしていた。こうして促され、伯爵邸へと俺達は入る。晩餐の用意がされていて、すぐに食事をとる事になった。名産品の一つだという鶏肉は本当に美味しかった。
食後、俺とルカス陛下は、当然のごとく同じ部屋へと案内された。少し前の俺にとっては、考えられない対応である。貴族やその館の人々に傅かれる環境に、全く慣れない。王宮や後宮では、元々俺が文官だったせいか、ここまで恭しく扱われる事は無かったのだ。
「……」
寝台へと歩み寄り、俺はポンとその上を叩いた。後宮のものに負けず劣らずふかふかだが、少し小さい。セミダブルの寝台から顔を上げ、続いて俺は近くのテーブルを見た。そこの上には、いかにも高級そうな深い紫色の瓶が置いてあった。蓋にはアメジストが輝いていて、銀色の装飾が見える。何だろう? 歩み寄り、俺はそれを手に取った。すると甘い匂いがした。香水だろうか?
「陛下、これは香水ですか?」
瓶を手にしたまま、振り返って俺は尋ねた。すると着替えを終えてソファに座りワインを飲んでいた陛下が大きく咳き込んだ。ワインを吹き出しそうになっている。
「ば、馬鹿」
「へ?」
「お前、なんて物を持って――」
「ここに置いてあったんだ。俺が持ってきたんじゃない!」
「な」
「大体、何でもかんでも、俺を馬鹿扱いして済ませようとするな!」
ムッとして、俺は瓶を持ったままで、陛下の正面の席へ向かった。そしてテーブルの上のワインのボトルの隣に、綺麗な瓶を置く。
「これ、香水じゃないのか?」
「――どこからどう見ても、香油だ」
「え!?」
それを聞いて、俺は目を見開いた。
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