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第41話 ③
「フェルスナ伯爵が気を回したんだろうな。俺とお前は相思相愛という事になっているのだから」
俺はその言葉を聞きながら、瓶を凝視した。俺が知っている香油とは、全然違う。さすがは貴族の使う代物だ。俺が過去に見た事がある娼館の香油は、何の装飾もなく変哲もない、牛乳瓶に入った水のような見た目で、無臭だった。ほぼ、ただの油である。こんな風に豪華ではなかったし、良い香りもしなかった。
「貴族は、香油まで、平民とは違うんだなぁ」
思わず口に出すと、ルカス陛下がワイングラスを持ったまま、動きを止めた。それから、静かに一口飲んだ後、俺をじっと見た。
「もし……そ、その……興味があるのならば、使ってみるか?」
「え?」
俺はその言葉に、何度か瞬きをした。それから改めて瓶を手に取る。
「ルカス陛下、添い寝サービスは陛下でも出来ると思うけど、マッサージスキルもあるんですか?」
「どういう意味だ?」
「香油は、肩もみの時に使うものですけど」
「――は?」
「確かに最近書類仕事詰めで、俺肩こってるなぁ」
何度も頷いた俺を、何故なのか遠い目をしてルカス陛下が見た。
「勇気を出して提案して、すごく損をした気分だ」
「勇気? マッサージスキル、やっぱり無いって事ですか?」
「違う。お前が知識まで童貞――未満だと知ってな」
「へ?」
「あるいは娼館で、カモられていたんだろうな、オルガは」
「はい?」
俺が首を傾げると、不貞腐れたように陛下が続けた。
「本来それは、後孔をほぐすために使うものだ」
「え」
「――寝るかと聞いたんだ。閨的な意味で!」
「!!」
俺は目を見開き、口も大きく開けた。それから何度も瞬きをしている内に、一気に自分の勘違いが恥ずかしくなってきて、目が潤んできた。顔が熱い。何か言おうと思うのだが、声が出てこなくて、俺の唇は震えるばかりだ。
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