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第43話 眼鏡みたいな橋①

 眠い目をこすりながら、俺は入ってきたレストに手伝ってもらって着替えた。作りが複雑すぎて、一人では無理だったのである。陛下は当然のように手伝ってもらっていた。そちらが高貴な人物にとっては普通なのだろう。  こうして朝食を伯爵に振舞ってもらう頃には――俺は初めての視察に緊張し、目が冴えきっていた。もう眠気はどこにも無い。王家の馬車で、いざ橋へと向かう頃には、胸が緊張から騒がしくなっていた。  普段の俺は、決してあがり症では無い。だが、これまでの俺の仕事は、机に座って行うものばかりだったから、いきなり式典に出るというのはハードルが高い。 「おお……」  が。馬車から降りた俺は、美麗な石造りの橋を見て、目を瞠った。まるで俺が先日までかけていた眼鏡のようなアーチが二つある橋は、細部にまで彫刻が施されている。下を流れる水路の色も、鮮やかな水色だ。絶景だ。 「綺麗だ……」  俺の口からは、ありきたりな感想しか出てこない。そんな俺の隣に降りたルカス陛下は、ちらりと俺を見た。 「風景に感動するタイプだとは思っていなかった」 「へ? 綺麗だと思わない? 陛下こそ、そういう感性を持っていそうなのに」 「勿論、俺は美しいと思っている。俺の国だ――全ての景色を愛している」 「それはちょっと大げさすぎて信じられないなぁ」  素直に俺が言うと、ルカス陛下が喉で笑った。その表情がいつになく優しげだったため、こういう姿は、本当に国王陛下らしいなと感じてしまう。すると不意に、ルカス陛下が俺の右手を握った。 「?」 「――婚約しているのだから、それらしく歩いた方が良いだろう?」 「ああ、なるほど」  こうして、式典前の視察の一環として、俺達は橋の上を歩いた。周囲には近衛騎士の他、この日のために集まったという領地の人々がいた。皆、にこやかに俺達を見ている。俺も笑顔を返したが、正直顔が引きつりそうになった。そうして橋の中ほどまで進んだ時、ルカス陛下が足を止めて、下の水路を見た。俺も隣で視線を向ける。 「すごい……!」  水面がキラキラと煌めいている。思わず頬を持ち上げ、俺は興奮のあまり、ギュッとルカス陛下の手を握った。それから振り返り、ブンブンと持ち上げて振った。 「綺麗すぎる!」 「子供のようだな、オルガは」 「年齢なんて、このキラキラには無関係だと思います!」 「それもそうだな。ただ俺には、お前がそう言うだけで、一際綺麗に思えてくるから不思議だ」  俺達がそんなやり取りをしていると、後ろから楽しそうな笑い声が聞こえた。そちらを見ると、フェルスナ伯爵が目を細めて笑っていた。 「仲がよろしくて羨ましいですな」

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