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恋のマッチアップ番外編 膠着状態3
☆☆☆
『加賀屋のせいで、こんなに乱されるなんてっ、あぁっ!』
妄想によるイップスを、なんとしてでも攻略しようと真面目に考えているのに、笹良のエロい声がどこからともなく聞こえてきて、脳内に響き渡る。
『やっ、はじめてなの、にぃ…恥ずかしぃっ。こんな俺をっ、ンンっ! 加賀屋に見せたくない』
そのうち声だけじゃなく笹良本人の乱れた姿が、まぶたの裏にほわわ〜んと映し出された。場所は更衣室。長椅子をベッド代わりにして、ユニフォームを捲りあげた笹良が、喘ぎ声と一緒に甘い吐息を漏らした。
俺だって、男を相手にするのははじめて。だからホモビで勉強しまくった。ナニをどうすれば感じるのか――そりゃあもう熱心に勉強した結果が、目の前に転がっている!
『やっ! 腰動かさないで! 変になるって』
そんなことをお願いしてるのに、自分から腰を動かす笹良。細い腰がしなるたびに俺のをぎゅんぎゅん締めつけて、絶頂に導こうとする。
ゴールを外すたびに見せていたつらそうな表情じゃなく、口を半開きにして息を切らすその面持ちは、淫靡な雰囲気をこれでもかと醸していた。普段は見られない貴重な笹良の姿に、俺の中にあるボルテージが、否応なしに高まっていく。
とまぁこんなふうにものすごく詳細に妄想できるわけは、以前体育館にてふたりきりで話し合いをしたせい。
俺が見惚れたシュートをやってのけた笹良に抱きつき、熱のこもった肌に直接触れた。今まで抱いた女よりも肌質が極上で、むしゃぶりつきたい衝動に駆られてしまうレベルは、すごいことだと思う。
そして残念なことに、あのとき中途半端で終わっているゆえに、妄想が暴走しているらしい。与える快感に容易く流される笹良を知ったあのとき、ヤれるところまで突き進めば、こんなことにはならなかったかもしれない。
今の俺にとってコートでプレイしている笹良は、どんな表情でもあっち系に結びつけることが可能だし、スリーをしようとする笹良の右腕の筋肉のちょっとした動きや、ボールを放つ指先すらも、エロに紐付けすることができる。
(――俺ってば、マジで天才かもしれない!)
下半身をおっ勃てたまま、そんなことを考えついてしまったゆえに、情けなさも手伝って、イップスを攻略してやるぞという気持ちだけが萎んでいった。
「それではここから、選抜メンバーを中心に練習試合をおこなう。解散!」
ぱんっと手拍子して解散を促した監督の声に、メンバーが体育館の端に移動をはじめる。しょんぼりしながら歩いていたら、いきなり肩を叩かれた。反射的に笹良だと思い、嬉々として振り向くと、同期が心配そうな顔で俺を見上げる。
「加賀谷大丈夫か? なんかつらそうな声が出てたけど。具合が悪いとか?」
「声?」
「そう。うっ!とか、くうっ!なんていう、呻き声みたいな感じ」
ジャージの裾を引っ張って前を隠しつつ、気だるそうに歩いてみせた。
「じ、実はちょっとだけ熱っぽくてさ」
笹良のエロい妄想のせいで声が出ていたとは、かなり恥ずかしい……。
「あ~、顔が赤くなってる。もしかして熱が上がってるかもよ?」
額に手を当てられそうになり、自分の手で慌てて額を覆い隠した。
「確かに上がってる! ヤバそうだから、このまま練習パスするわ。心配してくれてサンキューな!」
そそくさと同期の前から立ち去り、監督のもとに駆け寄った。笹良の妄想から脱却するために、しばらく練習を休むことにしたのだった。
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