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恋のマッチアップ番外編 膠着状態5
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こじんまりしたアパートの1階、『加賀谷』という表札をしっかり確認してから、インターフォンを押してみた。ピンポーン♪という音が響き渡ったものの、それ以外の音がまったく聞こえてこない。
(大学にも顔を出さず、自宅を留守する理由。バイトをしている話も聞いてないし、それ以外で加賀谷がやっていることと言えば、たったひとつだ!)
ジーンズのポケットからスマホを取り出して、アパート近くにある公園を検索した。ここから徒歩5分の場所にあることがわかったので、地図を頼りに向かってみる。
米兵とストリートバスケをしている話を以前聞いていたからこそ、そこを目指した。
(公園にいなければ、探すあてがないな。加賀屋の住所を教えてくれた同期に、行きそうな場所を訊ねてみるか――)
加賀谷がいなかったことを考慮しながら歩いていると、背の高いバスケのリングとバックボードが、木々の間から見え隠れする。ドリブルやその他の音がしないか耳を澄ましてみたのに、なにも聞こえなかった。
それでも確認しなければと、コートを目指した俺の目に映ったのは、ど真ん中で大の字に倒れている加賀屋だった。
「うわっ、大丈夫かっ?」
目の前の事態に、心臓が破裂しそうな勢いでバクバクした。絡まりかける足を動かし、加賀屋の傍に駆け寄る。
「加賀屋っ、加賀屋しっかりしろ!」
上半身を慎重に抱き起こしてから、頬を叩いてみる。
見たことがないくらい髪はボサボサで顔色は青白く、目が虚ろな状態だった。抱きしめた躰からは湿気った熱がじわじわ伝わってきて、素人の俺でもただごとじゃないというのがわかる。
「加賀屋…加賀屋っ!」
音が鳴るくらい頬を叩いているのに、荒い息を繰り返すばかり。救急車を呼ぼうと考えたタイミングで、力ない声が聞こえてきた。
「俺もぅ死ぬのかな。笹良がすぐ傍にいる感覚がある……」
「なに馬鹿なことを言ってるんだ。おまえの傍に、俺がいるっていうのに」
存在を知らしめるために両腕の力を込めて、ぼんやりする加賀屋を抱きしめてやった。
「本物の、笹良?」
重たそうな瞼をやっと開けて、俺の顔を見上げた。
「そうだよ。なんでこんなことになってるんだ? まさか、また無茶な練習をしたんじゃないだろうな」
俺の問いかけに、バツの悪そうな顔をする。
目を頼りにしないシュートをするために、馬鹿みたいな練習を何度もする加賀谷だから、無理をするのは簡単に想像できた。
「あー……。ちょっとだけ」
「ちょっとじゃないだろ、こんなにボロボロになってるのに!」
「笹良からキスしてくれたら、すぐに元気になるって」
加賀谷はいつものようにへらっと笑ってみせるが、俺としては笑う気になれなかった。
「それ、違うトコロが元気になるだけだろ」
「バレたか、残念」
いつもはくだないことをベラベラ喋るくせに、端的な回答と覇気のない声が、加賀屋の疲労具合を表していた。
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