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恋のマッチアップ番外編 膠着状態6
「それで、加賀谷はなんの練習に励んでいたんだ? こんなになるまでやり込むって、やっぱりイップスを治すためだったりする?」
俺はその場に腰を下ろし、加賀谷の頭を膝にのせてやる。
「イップスというか、う~……その、すげぇ言いにくいことなんだけど」
「言いにくいこと?」
とげを含んだ口調で訊ねた瞬間に、加賀谷は視線を右往左往させた。
「えっと俺ってば、頭いいじゃん。想像力が豊かだからこそ、そこからいろんな分野に繋げて、うまいこと勉強してるんだ」
「頭がいいヤツは自分のことを、そんなふうに言わないと思う」
「だから言いにくかったんだって!」
白い目で見下ろす俺に、加賀屋は頬を染めながら喚き散らした。
「その頭の良さと今回の練習が、どうやって繋がるんだよ?」
俺は凡人ゆえに、まったく理解が追いつかない。確かに加賀谷は、頭はいいと思う。だがちょっとズレがあるため、無駄な努力をしている可能性が無きにしも非ず。だからこそ、目が離せないのも事実だった。
(友達やめる宣言までしたのに、こうして自宅まで押しかけてしまったことは、結局加賀屋が気になって、仕方がないせいなんだよな)
「クソ真面目な笹良に言ったら、ドン引きされる。間違いない」
「ここで倒れてる時点で、かなりドン引きしてるよ。バカ……」
「だって笹良が好きだから。また前のようなチームメイトの関係だけなんて、どうしても嫌だったんだ!」
震える左手が、俺のシャツを掴んだ。力ない黄金のレフティを、俺は迷うことなく両手で包み込んでやる。
「笹良、好きなんだ……」
「この間は、ちょっと言い過ぎたかなぁと思った」
加賀屋の告白をあえてスルーした。顔を上げて、視線をゴールポストに移す。まじまじと下から見つめる加賀谷のまなざしが恥ずかしくて、どうにも耐えられなかった。
頬が熱い――胸が張り裂けそうなくらいドキドキしている現状に、どうしていいかわからなくなる。
「笹良、この間の話、無しにしてくれるのか?」
包み込む加賀屋のレフティが、痛いくらいに俺の手を握りしめる。まるで捕まえたと言ってるようで、恥ずかしさのあまりに放り出したくて堪らない。
「ああ言えば加賀屋が真面目なプレイに励むと、俺なりに考えたんだって。まさかこんなことになるとは、予想してなかった」
「一生懸命になるさ。死にものぐるいでおまえの妄想に打ち勝とうと、練習するに決まっ――」
「俺の妄想?」
告げられた言葉の不穏さに、ゴールポストから真下に視線を注ぐと、容姿端麗な顔があからさまに歪みまくり、俺の手を掴んでいたレフティの力も、徐々に失われていった。
「笹良、落ち着け!」
「俺はさっきから、ずっと落ち着いてる」
むしろ落ち着いていないのは、加賀屋のほう。額に汗まで滲ませて焦りまくる姿は、どう見てもおかしい。
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