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第2話
また、あの夢だ。
でも、なんだ。何かが違う。
体が動かない。
苦しい。
しんどい。
俺の体じゃないはずなのに、なんでこんなにもつらいんだ。
夢の中のこと人と感覚まで共有してるっていうのか。
「真白……やはり、無理だ……」
「お願いします。朱華様……私は、そのために生まれてきました。このために、贄となりました。貴方様は供物を必要としています。このままでは、村だけでなく、この国までもが廃れてしまいます」
「お前を失うくらいなら、そんなもの」
「駄目ですよ。私は、そうまでして生きながらえることはしたくない。どうか、私を食らってください。それで貴方は力を得る。私の最後のお願い、どうか聞き届けてはいただけませんか?」
何を言っているんだ。
この人は、死のうとしてるのか。
じゃあ、いつも一緒にいる人が神様とでもいうのか。
なんで今、こんな夢を見てるんだ。
やめろ。
やめてくれ。
こんなの、嫌だ。
離れたくないはずだ。
一緒にいたいはずだ。
この人の心はそう叫んでるのに。
「朱華様……人の魂は何度でも巡ります。いつか、私の魂もまたこの世に生まれてくるかもしれません。そうしたら……」
「いつか、必ずお前を迎えに行く。何年、何百年かかろうとも。それまで待ってくれるか、真白」
「……朱華様……いつまでもお待ちしております。もう一度、貴方の腕に抱かれる日を……」
泣きそうになるのを必死に堪えながらこの人は、真白は目を閉じてその身を捧ぐ。
待ってくれよ。
怖いんだろ。俺には伝わってくる。真白の恐怖が、悲しみが。
こんなのってない。こんなの、ダメだ。
頼む。こんな悲しい記憶を俺に見せないでくれ。
どうして俺にこんなものを見せるんだ。
俺にはどうにもできないのに。
ただ見せられてるだけなのに。
嫌だ。嫌だよ。
「愛してる……真白」
そんな悲しい声で呼ぶな。
それは俺じゃない。
俺じゃないのに、悲しくなってくる。
子供みたいに泣き出したくなるんだ。
だから、もうやめてくれ。
目の前が真っ白になる。
その瞬間、見えたのは大きな白銀の竜の姿。
あれは、一体。
心奪われるほどの美しいその姿に、彼女の中の恐怖が薄れていくのを感じた。
ああ。この人の一生が終わる。
痛みはなく、ただただ悲しみだけが残った。
こんなつらい悲しみがこの世に存在するなんて。
俺は、知らない。
「もう一度、あの人に会えるなら」
真っ白な空間から声だけ聞こえる。
「今度は。何のしがらみもなく、心のままに、あの人を愛したい」
真白の声、なのか。
俺に何を伝えようとしてるんだ。
俺はお前を知らない。
あの人も知らない。
それとも、俺にお前を見つけ出せっていうのか?
そんなの無理だ。
無理だよ。俺には、俺は。
俺は。
「大丈夫。大丈夫よ」
それ、俺の口癖。
どうして、あんたがそれを言うんだ。
教えてくれ。
お前は俺にどうしてほしいんだ。
「どんな姿になっても、きっとまたあの人を」
目の前が、真っ黒になっていく。
意識が遠ざかる。
待って。
待ってくれ。
なぁ、真白。
俺は。
俺は。
「お前じゃない!!」
そう叫ぶのと同時に、俺は勢いよく立ち上がった。
背後で椅子が倒れる音が響いて、みんなが俺のことを見てる。
驚くのも無理ないし、俺自身も驚いてる。
「あ、あー……廣瀬、大丈夫か」
先生が言葉を選ぶように話しかけてきた。
居眠りしてたことを注意するところなんだろうけど、俺の様子に言葉が出ないんだろう。
体中が汗だくで、呼吸も荒くなっている。
夢見が悪いなんてものじゃない。
とんでもない悪夢だ。
「す、すいませんでした」
「具合が悪いなら保健室に行ってもいいんだぞ」
「大丈夫です……」
俺は椅子を直し、座り直す。
周りの様子を見てる余裕もない。ざわつく声に耳を傾ける気すら起きない。俺は乱れた呼吸を整えながら、さっきの夢を思い返した。
なんだよ、あれ。
ただの夢なのに。
なんで俺は今泣きそうになってる。
違う。
違うだろ。
あれは、俺じゃない。
俺には、関係ないはずだ。
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