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第4話

 そうだ。  これは夢。  俺じゃない。  俺の記憶じゃない。  だから、俺の中から出てけ。 「真白」 「だから、俺は真白なんて名前じゃないしお前も知らない!」 「俺がお前を間違えるはずがない。お前に記憶がなくても、その魂を俺は知っている」 「しらねーよ! 悠斗、行くぞ!」 「え、ちょ……」  俺は悠斗の腕を引っ張ってその場から走り去った。  早くアイツから離れたい。  俺は違う。俺じゃない。  そう自分に言い聞かせながら、急いで家に帰る。 「なぁ、至。なんだよ、さっきの」 「知らない」 「知らないって……じゃあ、あの人は何だよ」 「知らないって言ってんだろ!」  思わず叫んでしまった。  悠斗はそれから何も話しかけなくなったけど、明らかにさっきの男のことを気にしてる。  知らない。俺はアイツと会ったことなんかないんだから。  アイツを知ってるはずがない。  名前も知らない。顔も知らない。  あれは全部、夢だ。 「……ごめん、悠斗」 「あ、いや……何かあったら言えよ? 話、聞くからさ」 「ありがとう……」  家の前に着き、俺は悠斗にさっきのことを謝った。  俺のことを心配してくれたのに、キツイ言い方をして悪かったな。でも、俺もどうしていいか分からないんだ。  じゃあな、と手を振って俺は家に入ってった。  それから母さんに今日は具合悪いからと言って外食を止めにしてもらった。今日は誕生日を祝ってもらう気分じゃない。  心配そうにする母さんに大丈夫だからと言って、部屋に戻る。制服のままベッドに倒れこみ、深く息を吐きだした。 「……なんだよ、これ」  授業中に見た夢。  真白という人の記憶。  そして、その真白の想い人である朱華という存在。  それがアイツだというのか。  そうであったとして、俺と何の関係がある。俺はただ真白の記憶を夢に見てるだけの、ただの高校生だ。  俺は、真白じゃない。  それとも俺が真白の生まれ変わりだとでもいうのか。  そうだったとして、だから何だよ。  俺は真白じゃない。  俺はこの15年間、廣瀬至として生きてきた。  両親の子供として生まれて、これからもそうして生きていくんだ。  真白のために俺は生まれたんじゃない。  俺は、俺の人生は俺のものなんだ。  真白の願いを叶えるために、あの男に会うために生まれてきたんじゃない。  絶対に。 「違う……」  この泣き出しそうな感情も。  今すぐアイツに会いたくなるこの衝動も。  あのまま抱きしめてほしかったなんて気持ちも。  全部、俺のものじゃない。  夢に引っ張られるな。  俺の中から出ていけ。  俺を、真白と呼ぶな。  俺は至だ。廣瀬至。生まれた時からずっとそうだったんだ。  お前の求めてる真白じゃない。 「俺は、違う」  なれないものに、なろうとはしない。  違う、そうじゃない。なろうとする必要すらない。  俺は俺でいいんだ。  俺のままでいい。  これは、俺の体だ。 「……っ」  涙が、溢れ出して止まらない。  何が悲しいのかもわからないまま、ただただ声を殺して泣き続ける。  どうしたらいいんだよ。  俺に、どうさせたいんだよ。  わからないよ。

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