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第8話

 みんなと別れ、家に着く。玄関の前に誰もいないことを確認して、俺はほっと胸を撫で下ろした。  よかった。もし家の前にアイツが待ってたらどうしようかと思ってたけど、誰もいなかった。  これから毎日アイツがいるかどうかで一喜一憂しなきゃいけないなんて嫌だな。 「……はぁ」  昨日から色々ありすぎてちょっと気疲れしてる。  俺は家に入り、母さんに声掛けてから真っ直ぐ部屋に向かった。夕飯まで軽く寝たい。寝れなくてもいいから横になりたい。  もう変な夢も見ないから、きっとゆっくり寝れる。今の俺にはそれが少しだけ救いだ。  それにしても、さっきの悠斗の話には驚いたな。  きっと幼馴染ってだけじゃない。アイツがそういうのに聡いんだろうな。昔から気の利くヤツだったし。観察眼っていうのかな。洞察力みたいなのが良いんだと思う。  ベッドに横になって目を閉じる。何も気にせずゆっくり寝れる。そう思ったのに、なんかあれだけ嫌だったのに急に夢を見なくなったのが凄く変な感じがして気持ち悪い。嫌いな奴でもいざお別れになったら少しは悲しくなるようなそんな感じなのかな。  俺にとってあの夢は知らない誰かの自伝映画を延々と見せられてるようなものだった。俺、普段からドキュメントとかも見ないし、てゆうか毎日同じものを見せられれば飽きるはずだし、他人の記憶を毎日見せられたからってその人にはなれない。  なんかSF映画にあるような脳をいじるとか、そういうんじゃないんだし。まぁ俺の場合は前世の記憶だからSF的なそういうのとはジャンルが違うような気もするけど。 「……アイツは、まだ真白を求めてるのかな」  ずっと捜してるって言ってた。  こういうの真剣に考えてるとなんか自分が馬鹿みたいに思えるから嫌だけど、アイツは昔この土地を守っていた神様なわけで。  今がどうなのかは知らないけど、ずっと長い時間を生きてきたってことだろ。ずっとずっと、真白が生まれ変わるのを待っていたんだよな。  それなのに、生まれ変わりってだけの全くの別人である俺をそう簡単に好きになれるものなのか。  魂が同じなら誰でもいいのか。  よく前世占いとか色々あるけどさ。昔のあなたはこんな人でしたみたいな。そういうのって大概どう見ても今の自分とは真逆の人物だったりするわけじゃん。  それってもう別人だろ。全く違う人生を歩んできた別の人間じゃん。そもそも真白は女の人だし。人でもない奴に性別をとやかく言っても意味ないだろうけど、真白と俺じゃ共通点もなさそうだし。夢はいつも真白の視点だから彼女がどういう見た目なのかは知らないけど。  俺が女だったら、こんな風に悩まなかったのかな。  まるで漫画みたいに、前世の恋人でしたって超絶イケメンが自分に会いに来たら速攻で好きになっちゃうのかな。  俺なら無理だけどね。もし相手が男じゃなくて女だったらちょっとドキッとしちゃうかもしれないけど、好きになれるかどうかっていえば別の話だ。  たまに友達の間でも聞くけど、告白されたら一応付き合ってみるとかそういうのも無理。理解できない。好きでもないやつとは付き合えないだろ。  それって俺がまだ子供だからなのかな。 「……記憶喪失になりたい」  全部忘れちゃいたい。  そしたら、俺は俺としてやり直せそうなのにな。  いや、それはそれで今の俺がいなくなっちゃうから駄目か。  なんかもうワケわかんないな。俺みたいな馬鹿が真剣に考えたって余計に頭がこんがらがるだけだ。  でも考えないようにできない。  もうぐっちゃぐちゃ。  アイツのことを考えないようにできないのが、悔しい。  もう夢を見なくなったなら、俺の中から真白が消えたのなら、もう余計なことなんか考えなくてもいいはずなのに。 「……アホみたいだ」  枕に顔をうずめて、俺は呟く。  思い切り叫びたい気分。喉が壊れるんじゃないかってくらい、叫びたい。  そしたら、少しはスッキリするかもしれないのに。

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