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第10話

 そういえば、アイツ「また明日」って言ってなかったか。  まさか、これから毎朝俺に会いに来るつもりかよ。そう思うとちょっと、なんか嫌というか恥ずかしいというか、あまりにも直球すぎるアプローチに慣れてないからこそばゆい。  神様に好かれるなんてな。今まで夢でしか会わなかった奴が現実に現れるなんて思いもしなかった。俺が真白でないと分かっても、アイツの気持ちは変わらないという。  それでも俺は、アイツの気持ちを受け入れることは出来ない。 「おはよー」 「至、おはよう」 「おはよう」  いつものように友人たちに挨拶して自分の席に着く。  こうしてると安心するというか日常に帰ってきたような感じがするな。アイツがいると落ち着かないから嫌だ。 「なぁ、至ー」 「ん?」  友人数人が俺の席を囲うように集まってきた。  なんだ、みんなして。俺の誕生日は終わったぞ。 「今日の放課後って暇か?」 「今日は、駄目だな。家族で飯食いに行くから」 「マジかよー! じゃあ悠斗は?」 「俺は特に用事ないけど?」 「じゃあ合コン行こうぜ!」 「合コン? だったら、行かない」 「えええ! 悠斗が来てくれたら女子大喜びなのに!?」  みんなががっくり肩を落としてる。  むしろ悠斗連れて行ったら女子たちは悠斗に持ってかれちゃうんじゃないんかな。カッコいいし優しいし、よく告白されてるし。 「なぁ悠斗、行ってやれば? 普通にみんなと遊びに行くと思ってさ」 「そうそう! 至の言う通り! 西女の子たちとカラオケ行こうぜ! 人数合わせに来てくれよー」 「……はぁ。わかったよ」  みんなに泣きつかれ、悠斗は深くため息をついて渋々引き受けた。  悠斗、こういう集まりってあんまり好きじゃないのか行きたがらないよな。俺もそういうところに来るタイプの女子のノリが苦手だから行かないけど。行っても相手にされないし。  モテるのにもったいないな。確実に彼女作れるのに。 「悠斗って彼女作らないのか?」 「……興味ないかな」 「ふーん。悠斗、告白とかよくされるのになぁ」  まぁ俺には関係ないことだから別にいいんだけど。  そういえば、中学の時だったかな。なんで告白されても断っちゃうのか聞いたときに、気になってる子がいるみたいなこと言ってた気がする。  もしかして、今でもその子が好きなのかな。  同じ中学の子で悠斗が気になってる子か。誰だろう。特別仲の良かった子はいなかったと思うけど。誰とでも隔てなく仲良くなる奴だし。  人の色恋に興味ないし、悠斗が話そうとしないなら俺も聞かない。俺にだって話せないこともあるしな。 「……至」 「ん?」 「……いや、何でもない」  どうしたんだろう。悠斗、なんかちょっと困ったような顔してる。  合コン、そんなに行きたくなかったのか?  でもみんなが盛り上がっちゃってるからさすがに俺が口出すわけにもいかないし。今日は我慢していってもらうしかない。 「楽しんでこいよ!」 「……ああ」  苦笑いを浮かべる悠斗の肩をポンと叩き、俺は笑顔を見せた。  それにしても、高校に入ってからみんなは彼女作るのに必死だよな。恋人ってそんなに大事なのかな。  アイツも、恋人がほしいからあんなに必死なのかな。  いや、違うか。アイツが欲しいのは恋人じゃなくて俺なんだもんな。自分でこんなこと思うのメチャクチャ自惚れてるみたいで恥ずかしいけど。  でも普通はそうだよな。好きな相手がいるから恋人になりたいと思うもので、恋人がほしいから出会いを求めるっていうのは何か違うような気がする。  それも人それぞれだから、どんな恋愛観があってもいいとは思うけどさ。  俺が軽い気持ちで恋愛できないのは、多分小さい頃から真白の記憶をずっと見せられてきたからなのかもしれない。  神と贄。共に生きることができなかった二人の思い出。  そういうの見てたら、普通の学生らしい恋愛観なんて持てないよ。 「……」  アイツは、何を思って俺を待つんだろう。  俺の気持ちが変わるかどうかなんて、分からないのに。  途方もないのに。  確信もないのに。  それでも、アイツは待つんだな。  俺が生まれてくるまでの間も、ずっと待っていたんだもんな。  神様のくせに、なんでそんな馬鹿なんだ。

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