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第11話
何事もなく放課後を迎え、浮かない顔をした悠斗とウッキウキの友人達を見送った。
大丈夫かな、悠斗。俺は合コンなんて一回も行ったことないからその場の空気とか悠斗がどう女の子と接してるのかも分からないけど、そんなに嫌がるものなのかな。
女の子にモテる悠斗にしか分からない感情でもあるんだろうか。
「……明日、なんか奢ってやるか」
明日の朝は元気がないかもしれない。帰りになんかコンビニでお菓子でも買っておくか。
俺は帰り支度を済ませて教室を出た。
今から帰ると母さんにメールを送って、俺は帰路についた。
なんかこの数日で色々ありすぎて、落ち着ける暇がなかったな。
一人で家までの道を歩きながら、俺はぼんやりと考える。
今まで見ていた夢を見なくなった。
そうなれば、俺はもう真白の記憶に悩まされることなんてないと思っていたのに、むしろ前よりも色々考えるようになってしまった。
あの男、赤居凰伽が現れたせいだろうか。
アイツが目の前に現れなければ、ただの夢で終われたのに。ただの昔話が現実になってしまった。
全部アイツのせいだ。
そうすれば、時間が経てば忘れることも出来たかもしれないのに。大人になって、そういえばそんな時期もあったなって思い返す程度で済んだかもしれないのに。
なんで今、会いに来たんだよ。
「やぁ、至」
「げっ!?」
コンビニでお菓子を買って外に出ると、アイツが出待ちしていた。
何でいるんだ。また明日って言ってたじゃないか。朝しか来ないんじゃないのか。
「今日は一人なんだな」
「……急いでるんで」
「いつも友人と一緒にいることが多いから遠慮してたが、一人だったから会いに来てしまった」
「……は? 俺、監視されてんの?」
「見てるわけじゃないぞ。気配を感じ取ってるだけだ」
「気持ち悪いな……」
「いつもじゃない。そこまで暇でもないからな。そろそろ下校時間だと思ってちょっと気を辿っただけだ。言っておくが、お前のプライバシーを侵害するようなことはしていないぞ」
なんだよ、それ。漫画みたいな表現されたっていまいちピンとこないし。
俺が歩き出すと、コイツも当たり前のように俺の隣を歩いてくる。
やっぱりだ。
コイツといるときは誰ともすれ違わない。
この時間の住宅街で誰にも会わないなんてあり得ないのに。こういうの一度意識すると、やっぱコイツは人間じゃないんだなって思う。
すでに見た目が人並み外れてるし。
「……そんな毎日会いに来たって無駄だぞ」
「無駄になるかどうかは俺が決めることだろ?」
「……俺は、絶対にお前なんか好きにならない」
「それは俺の頑張り次第だ」
「俺の気持ち次第だろ」
「俺が何か行動を起こさないとお前の気持ちも変えられないだろう? なら、俺の頑張り次第だ」
駄目だ。何言ってもコイツはぶれない。
何なんだよ、神様のくせに一人の人間に執着していいのかよ。
俺はお前を好きにならない。好きになんか、なりたくない。
俺がお前に抱く気持ちは真白の気持ちに影響されてるだけだ。真白のことを夢に見てなかったら、コイツのことなんかどうも思わなかったはずだ。
「ああ、そうだ」
「……?」
「これ、至に渡そうと思っていたんだ」
「俺に?」
差し出されたビニール袋を受け取ると、中身はコンビニのケーキだった。これ、最近出た新商品だ。さっきコンビニで探したけど置いてなかったのは先にコイツが買っていたからか。
「誕生日プレゼントだ。当日に渡せなかったのが残念だが」
「……ありがとう」
「お前くらいの年の子が何をあげれば喜ぶのかと色々考えたのだが、それくらいが気兼ねなく受け取れるだろう?」
「……まぁ」
確かにここで高価なものを差し出されてもドン引きするだろうからな。
ちょっと驚いた。そういうこと、ちゃんと考えてるんだな。
悔しいけど、素直に嬉しい。
「甘い物、好きだったか?」
「普通に好きだけど……」
「そうか、なら良かった。最近の甘味は本当に素晴らしいな。こんな安価なのにとても美味い」
「お前も食うの?」
「ああ。土地神だから食べなくても平気だがな。強いて言うなら俺にとって食は娯楽だ」
なるほど。美味しいものを食べるのは楽しいもんな。
コイツは長いこと生きてるからそういった食文化とか色々見てきたんだろうな。ちょっと興味ある。
「今の方が、飯美味い?」
「そうだな。俺は今の方が好きだ。手軽に食事がとれるのもいい」
「ふーん……」
「至は何が好きだ?」
「俺? 俺は……苺とか」
「可愛らしいものが好きなんだな」
「べ、別にいいだろ。ラーメンとかも好きだし」
「おお、いいな。ラーメンは確かに上手い。種類も豊富だ」
意外と庶民的なんだな。もっと高級なものとか食いまくってるのかと思ったけど。
話してみるとコンビニ飯とか駅前のラーメン屋とか行くのが好きらしい。ラーメン屋でこんな派手な奴いたら目立つだろうに。
「なんでお前、そんな派手な見た目なの。神様なら見た目なんて自由に変えられるんじゃないの」
「まぁ、そうだな。最初はもっと日本人らしい見た目にしていた。だが会社を建てた時に思ったんだ。こういうのは目立ってナンボだと。だから限りなく本来の自分に寄せたのだ」
コイツ、こんな見た目だったんだ。
真白の記憶でコイツの姿はあまり見えなかった。だから元々のコイツをよく知らない。
龍の姿とかどんなだったのか気にならないこともないけど、この現代で龍が現れたら大騒ぎだもんな。
「今の俺の姿は嫌いか?」
「今のっていうか、昔のお前なんか知らないし」
「覚えていないのか?」
「覚えてないとかじゃなくて、知らないんだよ」
「……そうか。それなら良いんだ」
真白の記憶に自分の姿がなかったのが残念なのだろうか。
そう思ってコイツの顔をチラッと盗み見たけど、普通に笑顔を浮かべていた。何を考えてるのか全然分からないな。
てゆうか、コイツのことなんかどうでもいいんだけどさ。なんか今日は普通に会話しちゃったし。何考えてるんだ、俺は。無視しろ、こんな奴のことなんか。
「む。もう着いてしまったか。もう少し話をしていたかったが、仕方ないな」
「もう来るなよ」
「それじゃあ、また明日」
そう言って、アイツは離れていった。
また明日って何だよ。俺は来るなって言ってるのに。
俺は家に入り、貰ったケーキを冷蔵庫にしまった。
まぁ、ケーキに罪はない。コイツは外食から帰ってきたら美味しく食べてやろう。
俺は母さんに急かされ、慌てて出かける準備をした。
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