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日本編5 一縷の光に手を伸ばす◆

 達した直後の息も絶え絶えの陸人さんを抱きしめる。汗ばんだ身体は俺のよく知る彼のものだ。  頭の後ろで縛っていたネクタイを解くと、初めて陸人さんと目が合った。一緒まぶしそうに目を細めたけれど、すぐに俺の顔を見て微笑む。 「なんだ、もう終わりか」  その目を見れば嘘をついていないことはわかる。目の前のこいつが“ジュリアン”を殺したことは紛れもない事実だ。  だが自分を殺したはずの人間がなぜこんな顔ができる?  慈愛に満ちた表情。怒られるかと思っていたのにそんな素振りはまったくなかった。 「……まだ満足できてないんだけど」  内緒話を打ち明けるように耳元でささやかれて、その色めいた響きに思わず耳を押さえる。その台詞を引き金に一気に下半身に熱が溜まった。  ほんの数秒ももどかしく感じつつ自分で自分の服を脱ぎ落としながら二人でベッドに移動する。 「嫌だったら断ってもいいんだけどさ」  そう前置きしながら陸人さんの手の上に自分の手を重ね合わせた。 「今日は上に乗ってくれる? 」 「……特別だからな」  顎を上げてにやりと凶暴に笑う陸人さんの姿に興奮で背筋が震える。  ごくり、と生唾をのみこんだ。  俺がベッドに横たわるとすかさず陸人さんがその上に跨ってくる。つぷ、と彼の中に指を入れるとそこは既に十分に柔らかくなっていた。これなら彼を傷つける心配はない。 「おいおい、今日は俺にさせてくれるんだろう」  無断で尻に伸ばした手を軽くはねのけられ、手慣れた仕草でくるくるとゴムを着けられた。  後ろ手に俺自身を固定しながら陸人さんの腰がゆっくりと下されていく。先端を呑み込まれる感覚に思わず声があがった。  柔らかく湿ったそこは大した抵抗もなく俺を包みこんでいく。じわじわと広がる熱に浮かされるようだった。虫の這うような速さで根元まで挿入され、たっぷり焦らされたかと思えばまたゆっくりと腰が上がっていく。きゅう、と肉壁に締めつけられる感覚にどうにかなりそうだった。 「……ぅあッ…………」  一気にストン、と腰が落とされ、その衝撃に上がる声が抑えられなかった。頭の中で気持ちいい、気持ちいいと快感を訴えている。  ぱちゅん、ぐちゅん、と身体のぶつかりあう音と粘膜の擦れる卑猥な響きが部屋中に溢れる。同じ抽挿でも自分でするのと他人主導でするのではまったく違う。予測できない動きのせいで自分のものじゃないような高いうめき声が出てしまう。  陸人さんも自分で動きたいように動けるからか、自分で悦いところに俺自身を押しあてるたびに同じく切なげに声を漏らしている。彼が腰を振るたびに身体が震え、絡みつく襞が俺を搾りとろうと蠢いているのがわかった。中から俺が抜け出るぎりぎりまで引き上げてから一気に根元までくわえこまれるたびに甘い痺れが身体中を駆け巡る。 「り、陸人さん……ッんぁ、……俺…………」 「……ッふ……いいよ、一緒に……ぁあっ……」  陸人さんの腰の動きがより強く早くなる。たまらず俺も下から突き上げると乱れっぷりが激しくなった。 「……すきッ……しおん、……すきだ……ッぁん」  陸人さんが追い立てられるように白濁を漏らす。その反動でより強く締めつけられ、彼の中で俺の熱も弾けて果てた。  甘い余韻にひたるように、お互い肩で息をしたままじっとしていた。熱い視線が絡み合う。  波のようにゆっくり引いていく興奮が落ち着いて俺自身が柔らかくなったころ、ようやく陸人さんが中から俺を引き抜いた。  どさりと倒れ込む彼を両手で受け止める。 「……ごめん」  ぽつんと小さな子供のように謝罪の言葉を口にした。 「なんだよ今さら。でも今日はお互いちょっとエキサイトしすぎたな」  陸人さんの一点の曇りのないはにかんだ顔に腹の奥底で罪悪感が渦巻いていた。  目隠しを外せば全てが自由の身だ。簡単に逃げられるし俺をとっ捕まえて殺そうと思えばいつだってできる。それでも彼はそうはしなかった。  嫌なら断っても構わないという選択肢も提示したのに、彼はそれを選ばなかった。殺したいほど憎い相手には決して見せたくないような痴態も俺の前でさらけ出してくれた。  それは俺を、信じているから?  今はなにもわからない。リシャールがなぜ俺に再び近づいたのか、俺を一体どうするつもりなのか。  それでも、情事の最中にうわ言のように教えてくれた好意だけは真実であると信じたい。それがかつて“リシャール”が“ジュリアン”に向けた偽りの愛と同じだったとしても、その気持ちが本物であるという一縷の希望にすがりたかった。

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