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第2話 心を開いて

 ぐっとシャツを外へと引いたままに、柊の手が止まった。  チラ見えしていた鬱血痕が、存在を主張するようにオレの瞳に映った。  艶やかに啼く柊の姿が脳裏を掠め、ぞわりとした痺れが腰を撫でる。  欲望のままに見詰めてしまったオレのあからさまな視線に、柊の顔が歪んだ。 「視線が痛ぇ……」  じとっとした柊の瞳が、オレを睨む。 「あ、ごめん?」  悪いとは思っていないが、とりあえずの謝罪を紡ぐ。  見ていると余計に煽られるような気がして、気持ちを落ち着かせるように瞳を(およ)がせた。  自分では見えないであろうキスマークへと瞳を向けた柊は、中指の先で紅い痕を撫でた。 「……自分でつけといて、照れるなよ」  ふんわりと上がる口角が、まるで幸せを噛み締めているような雰囲気を纏い、堪らない。  幸せそうな雰囲気の裏に漂う色気が、オレの腹底を焦がす。  あぁ、抱きてぇ……。  啼かせてぇなぁ。  待って、嫌だ、と愚図(ぐず)るクセに、柊の(とろ)けた脳はオレを欲する。  オレに(すが)り、無意識に立てた爪で、しがみついてくる。  きゅんきゅんとオレを締めつけるその身体に溺れたい。 「盛ってんじゃねぇよ」  呆れるように紡がれた柊の声に、驚きの瞳を向けた。 「ぇ? え?」  なんで俺がムラムラしているコトに気づいたのかと、思わず自分の股間に視線を向けた。  そこは、なんの変化もない。  ジーンズの上からでは、多少膨らんだとしても、一見でわかるはずもない。  ぱしぱしと瞳を(しばたた)くオレに、ふははっと柊が吹き出した。  最近は、よく笑ってくれるようになった。  柊の背中には、小さなショルダーバック。  その中には、財布やスマートフォン、家の鍵。  オレに心を開いてくれるようになっていた。

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