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第3話 大学の同期

「マジで盛ってたのかよ。…帰ってするか?」  オレを見やる細くなった柊の瞳は、熱を帯びる。  誘っているとしか思えない。  色っぽく、艶っぽく、…オレの欲情を煽り立てる。  でも、そんなコトばかりを考えていると思われたくない。  だけど、その甘い誘いを断る術を、オレは知らない。  答えに詰まり、じっと見詰めてしまうオレに柊の視線が周りを探る。  少し先の公衆トイレに目を留めた柊がニヤリと笑った。 「待てねぇって言うんなら、その辺でしゃぶってやろうか?」  立てた親指でそこを指しながら柊は、揶揄(からか)うように笑った。 「於久?」  オレの正面、柊を挟んだ先に、1人の男が立っていた。 「ぉおっ、育じゃん」  声を掛けてきたのは、オレの大学時代の同期、網野(あみの) 育久(いくひさ)だった。  近づいてきた育久は、ちらりと柊に瞳を向けた。  柊もオレの声に、育久へと視線を投げる。  ばちっと交わった2人の視線に、柊の瞳に動揺が走った。  いつもは自信たっぷりの表情で、ゆったりと値踏みするような瞳を向ける柊が、珍しく慌て顔を背けた。  育久も瞬間的に交わった瞳に、一度放した視線を再び柊へと向ける。 「ん? んん?」  ぱちぱちと何度か瞳を瞬かせた育久は、その視線から逃れようと左右に振るう柊の顔を追う。 「小佐田さん、ですよね?」  軽く腰を屈め、下から煽るように柊の顔を覗き込んだ育久は、確信を持って言葉を紡いだ。  はぁっと面倒そうに息を吐いた柊は、諦めたように口を開く。 「そうだよ。お前、目敏(めざと)過ぎんだろ」  不服げに声を放った柊は、きちんとセットしていた髪を、わしゃわしゃと乱雑に掻き混ぜた。

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