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第4話 だらしのない男
「ぇ? ……知り合い?」
オレの声に反応した育久は、そっちこそと言いたげな瞳をこちらへと投げた。
「あ、…とぉ…、オレの方は、モデル? してもらってる」
オレは言葉と共に、描きかけスケッチブックを育久へと差し出し、言葉を繋ぐ。
「てか、そっちの方が謎なんだけど?」
全くもって接点のなさそうな2人が知り合いだということが、不思議でならない。
……もしかして、元カレ…とか?
口走りそうになったが、なんとか言葉を飲み込んだ。
育久は、夜の相手を取っ替え引っ替えしていた。
ワンナイト・ラブなど、ざらだった。
高身長で整った顔立ち、更にずば抜けたコミュニケーション能力を持っている育久がモテないわけもなく、相手に困っている姿など見たコトもない。
5年前、大学3年の頃に一目惚れした相手がいて、それから一夜限りの関係は止めたらしいが、その前はアホほどヤりまくっていたヤツだ。
……こいつの下 のだらしなさを、オレは知っている。
でも、単なる知り合いで、柊がゲイだとバレてないかもしれない。
どういう知り合いなのかはわからないが、柊の立場を考えれば、下手なコトは口走れない。
スケッチブックに視線を落とした育久が、納得の声を上げた。
「だから頼まなくなったのか。オレにモデルやれって言わなくなったの、小佐田さんばっか描いてるからってコトでしょ?」
にやりとした笑みを浮かべる育久。
その瞳は、“お前、この人のコト、好きなんだ?”と暗に揶揄う。
ここは否定するべきか?
いや、オレは、好きだけど。
ここで認めたら、柊にも火の粉が降りかかりそうな気配が、ぷんぷんする。
育久と柊の関係性がわからない以上、肯定も否定もすべきじゃない。
揶揄い半分の育久の表情に、オレは視線に苛立ちを乗せる。
「いいよ、隠さなくて。お前もこっち側だろ?」
口を開いたのは、柊だった。
柊の瞳が、育久を見やる。
視線の先で、育久は幾分驚いた顔を覗かせていたが、小さく頷いた。
育久と柊の間で、アイコンタクトがなされた気がして、もやもやしたものが胸を掠めた。
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