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第5話 入り込めない空間

「小佐田さんは、会社の先輩」  言葉を紡ぐ育久の視線は、無遠慮に柊をじろじろと見やっている。 「へぇ。世間って狭いなぁ」  育久と柊の間に割り込み、その不躾な視線を遮りたくなる。  柊は、オレのもんだ。  そんな犯すような不躾な視線で、見んな。  思うのに、行動には移せない。  オレより育久の方が、柊を知っている気がした。  2人のわかり合っているような雰囲気に、その空間に入り込めなかった。 「俺は、お前らの関係の方が気になるけど?」  不思議そうな声を放った柊の瞳が育久を捉え、オレへと流された。 「大学の同期……」  問いに答えるオレの声を無視して、育久の指先が柊の顎にかかる。  くいっと持ち上げられた顎に、柊の瞳が驚きに揺れた。  キスでもしそうな勢いの育久の突然の暴挙に、焦りと怒りが入り交じったオレの身体はフリーズする。 「目、閉じてください」 「は?」  嫌そうに眉根を寄せた柊の瞳が、育久を()めた。  そんな視線も物ともせずに、育久の顔が近づく。 「ちゃんと見せてくださいよ。うちの製品ですよね? どんな感じですか?」  どうやら、柊の化粧に、好奇心が擽られたらしい。  興味津々の瞳で観察する育久に、柊もオレも呆気に取られていた。 「この前、ちゃんと協力したじゃないですか。今度はオレに協力してくださいよ」  ほうほうと感心しながらも観察し続ける育久に、柊は顎を掴まれたままに、小さく溜め息を吐く。  睨んでいた柊の瞳が、すっと閉じられる。 「子供体温のクセに。お子ちゃまが、生意気言ってんじゃねぇよ」  お前じゃ役に立たねぇんだよ、と吐き捨てた柊は、抗うことが面倒だと言うように、育久にすべてを委ねた。  なんで素直に言うコト聞いてんの?  育久の言葉に、素直に瞳を閉じてしまった柊の姿に、苛立ちが(よぎ)った。

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