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第6話 過ぎた嵐

「メガネとアイラインだけでも結構、変わるもんなんですね……」  じっくりと柊を観察する育久の雰囲気は、あくまでも仕事の一貫で、いやらしい雰囲気など微塵もない。  だけどオレの胸中は、穏やかではいられない。 「ん? リップ……」  顎を掴む育久の親指が、柊の唇に触れかける。  苛ついた気持ちのままに鼻から息を吐いたオレは、柊の顎を掴む育久の手を払った。  驚いたような瞳を向けた育久を無視し、柊の顎を取る。  いきなりのオレの挙動に、訝しげな雰囲気を乗せた柊の視線がこちらを見やる。 「目、閉じて」  刺々しい声を放つオレに、柊は納得いかない顔のままに、瞳を瞑った。  カシャリと音を立て、柊の顔を撮影したオレは、その写真を育久の携帯へと送る。  メッセージの着信に震えるスマートフォンを手にした育久が、画像を確認した。 「それでいいだろ」 「ぉ、おう……」  気圧されるように育久が軽くたじろぐ。  オレのもんにこれ以上触んなとの念を込め睨むオレに、育久の口許が、笑いを堪えるように歪んだ。  ニヤニヤする口許を隠すように片手で覆った育久は、オレが送った写真を見ながら、口を開く。 「いつもの格好は、女避けっすか?」  ちらりと送られる流し目のような育久の視線に、柊は不服げな顔をする。  いつもの格好…、ボサボサの髪にもっさりとした雰囲気の柊のコトだろう。  どんな格好をしていても、柊の魅力は変わらない。 「お前に関係ねぇだろ。てか、お前なんでこんなとこにいんの?」  面倒臭さを前面に押し出した柊の言葉に、育久は何かを思い出したように声を上げた。 「あっ! やべっ」  慌てスマートフォンの時間を確認した育久が、言葉を繋ぐ。 「じゃ、また、会社で。於久は、そのうち飲みに行こうな。じゃっ」  ばっと手を上げた育久は、全速力で走り去っていった。

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