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第8話 考えたってしょうがない
「あぁ、悪ぃ。こういうの気持ち悪いとか思っちゃうタイプ?」
普通じゃないコトは、わかっている。
同性を愛する性癖を、生理的に受け付けないヤツもいる。
嫌悪されても仕方がないと、心の隅では割り切っている。
ちなみに高校からの友人、おっぱい大好き星人の森野 は、豹野先輩に迫られ、気持ち悪さに吐いたらしい。
オレ自体に嫌悪はないが、自分がそういう対象として見られるコトに、拒絶反応を起こしたらしかった。
自分を指差し問いながら尻をずらし、於久から距離を取ろうとするオレ。
「そんな離れんなよ。気持ち悪ぃとかねぇから」
ずずっと尻をずらすオレに、於久の手が腕を掴み元へと戻す。
「気づいてはいたんだよ。オレ……勃たたねぇから」
ぼそりと声を放った於久の視線は、目の前を通りすぎた女子大生の脚を追う。
「いや……、ま、お前と同じ穴、使ったと思うと確かにキモいわ…」
ふと考えるような表情を浮かべた於久は、腿の辺りを埃を払うように、ぱんぱんっと叩いた。
不味いものでも食べたかのように、べっと舌を出し、嫌そうな顔をオレへと向けた。
「なんだそりゃ」
けらけらと笑うオレに、於久も一緒になり笑い声を立てる。
一頻り笑った於久は、はぁ…と小さく息を吐く。
「お前、…自分がゲイだってわかって、…悩んだりしねぇの?」
あまりにもあっけらかんとカミングアウトしたオレに、於久は、きょとんとした瞳を見せた。
「考えたってしょうがないでしょ。好き嫌いは人それぞれ。仕方ないじゃん、そっちの方が興奮すんだから」
すっと流すような視線を向けるオレに、於久は苦い顔をする。
「…、オレと、シてぇの?」
嫌そうに顔を歪めながら、紡がれた於久の言葉。
どこをどう解釈したら、そうなるんだよ?
思いながらも、お互いがお互いの身体を値踏みし、顔を顰め合う。
「……お前じゃ、勃たねぇわ」
先に首を振るったオレの頭が、於久に小突かれる。
「……お前に言われたくねぇよ。こっちこそ願い下げだわ」
再びかち合った視線に、弾かれるように笑い合った。
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