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第10話 駄々漏れの嫉妬心

 完全なるヤキモチ。  “オレのもんに触るな”という独占欲が、於久の身体全体から駄々漏れる。  素直というか、単細胞感が拭えない。  たぶん、於久の辞書にポーカーフェイスという言葉はない。  大事な宝物に触られるのは、我慢ならないタイプだ。  於久と好きな人が被るコトはなかった。  於久は完成された綺麗系を好む…、可愛い人より美人が好き。  小佐田さんは、於久の好みのど真ん中だ。  オレは、見た目はスマートなのにどこか抜けているような、どんくさい感じの可愛い人が好み。  一言で表現するなら、ギャップに萌える。  一晩の相手を探していた頃は、インテリのお堅い男を、どこまでドロドロに溶かせるかに全力を注いでいた。  今の彼氏、鞍崎さんは、同じ会社の4つ上の先輩に当たる。  真っ黒なツーブロックの髪に、銀縁フレームのメガネ。  見るからに堅物のインテリという風貌だ。  大学3年の頃、一夜の相手を探して訪れていた『Bar・Treffen(トレッフェン)』で、鞍崎さんに一目惚れした。  そこの従業員で、鞍崎さんの知り合いだった女装家のユリさんの力を借り、何とか射止めた。  付き合うまでの間、オレの鞍崎さん情報はすべてユリさんから教えてもらったものだった。  鞍崎さんの職場を教えてもらい、オレは半ストーカー状態で、その化粧品会社に入社した。  販売促進マーケティング事業部、通称“販促(はんそく)マーケ”で働く鞍崎さんと、営業部で働くオレ。  鞍崎さんは、オレの理想を具現化したような存在だ。  しっかりしてそうなのに、販促のためにつけた口紅をそのままに会議に出たりするおっちょこちょいなところがあったり、クールに見える反面、意外と甘えただったり…、ギャップの塊に他ならない。  付き合い始めて1年。  年々、可愛さが増している気がする。  あぁ、早く会いてぇ……。  於久たちと別れたオレは、全力疾走で鞍崎さんの元へと向かった。

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