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第11話 毎度の照明攻防

「電気消せよ」  Tシャツに、ジャージ素材の短パン姿。  風呂上がりの鞍崎さんからは、ボディソープのいい匂い。 「嫌です」  否定の言葉を紡ぎ、首筋に寄せた鼻先でふんふんと匂いを嗅ぐ。  ベッドの上に座り込んだ鞍崎さんの足の間に膝を入れ、覆い被さり押し倒す。 「いや、消せよ」  オレの四肢の檻に捕らえられた鞍崎さんは、必死に手を伸ばし、照明のリモコンを手繰(たぐ)り寄せようとする。  這い回る鞍崎さんの手を掴み、口許へ。  人差し指の付け根へと、ぱくりと甘く噛みつき、恨みがましい瞳を向けた。  捕食される寸前の草食動物のような怯えた瞳でオレを見やった鞍崎さんは、慌てて噛まれた手を引っ込める。 「消したら見えないじゃないですか」  不満たらたらの声を零すオレに、耳まで赤く染めた鞍崎さんは、むっと顔を顰めた。 「見られたくねぇんだよっ」  チッと吐き捨てるように放たれた声に、オレは文句を垂れる。 「嫌です。オレは、見たいです。頭のてっぺんから足の爪先まで余すところなく全部見たいっ」  駄々っ子のように訴えつつ、シャツの裾から手を忍ばせる。 「……っ、変、態っ」  オレの指先に、ぞわぞわと肌を粟立てた鞍崎さんの瞳が、恥ずかしそうにそっぽを向いた。 「いや、普通でしょっ。大好きな人の全部見たいし、全部知りたいって、普通でしょ」  視線を外されたのをいいことに、スルリと顔を寄せ、無防備な喉仏へと唇を寄せた。  ちろりと舌を這わせれば、驚いたように、そこがひくんと蠢いた。 「恥ずかしいんだよっ」  拗ねた声と共に、首に擦り寄るオレの顔を剥がそうと鞍崎さんが足掻く。 「どうしていいかわかんねぇしっ、…慣れねぇんだよ…っ」  恥ずかしさに暴れる鞍崎さんに、心がざわめく。  いつまで経っても初心(うぶ)な反応を見せる鞍崎さんに、血が沸騰する。  ヤバいでしょ…。鼻血、…出そ。 「消し…、消しましょ」  捲りあげたシャツから覗く肌も、照れた顔も、簡単にオレの心臓を撃ち抜いてくる。  一生懸命閉じ込めている腹ん中の獣が、檻を破って飛び出してきそうだ。  ―― ピッ  リモコンが機械音を立て、部屋が暗がりに飲み込まれた。

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