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第18話 自分で言っちゃう?

 ローションの滑りが、気持ち悪い。  風呂に入りたい。  だけど、指先ひとつ動かすのが億劫だと感じる。  俺の中から抜け出た網野は、手早くゴムを始末し、バスルームに繋がる洗面所へと消えた。  俺を放って自分だけシャワーを浴びに行った訳じゃない。  俺の身体を拭くための濡れタオルを準備しに行ったのだ。  初めてのセックスの時から、網野は甲斐甲斐しい。  甲斐甲斐しすぎて、鬱陶しくなるくらいにだ。 「腰、痛くないっすか?」  初めての経験に、身体中が重怠く、うつ伏せでベッドに沈む俺。  ベッドの端に座った網野は、俺の腰をタオルケット越しに(さす)ってくる。  まだ余韻で、身体が過敏状態だった俺は、その手を掴み剥がした。 「大丈夫」  恥ずかしさに顔を上げられず、枕に突っ伏したままに籠る声を返した。 「あ、喉、乾いてますよね」  ギシッと音を立て、立ち上がった網野は数歩の距離にあるテーブルからペットボトルを持ち帰る。  ベッド脇の床に胡座をかいた網野は、パキッと音を立て、蓋を開けたそれを俺に差し出した。 「どうぞ」 「いらねぇ。喉乾いてんなら、お前が飲めよ」  もごもごとした俺の返答に、空気が静まり返った。  何も話しはしないが、すぐ傍で俺を見やっている気配は感じていた。  ―― ぼふんっ  ベッドの端が揺れ、その振動に向けた瞳には、網野の登頂部が映る。 「だから嫌だったんですよぉ」  ベッドに顔を伏せたままに紡がれた網野の言葉。  くぅんとか細い鳴き声が続きそうな声色に、眉根が寄る。 「何がだよ」  しおしおと萎れた犬耳が見える気がして、その頭をわしゃりと撫でてみる。  もそっと上がった顔は、不満げに歪んでいた。 「オレ、セックス上手いじゃないですか」  思わぬ言葉に、網野の頭に手を乗せたままに固まった。  てか、それを自分で言うか?

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