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第19話 煙を上げて鎮火する
確かに、気持ち良かった……。
それは、網野がテクニシャンだと言うことだ。
でも、熟 れているというコトは、それだけ経験を重ねているというコトで。
自分ではない相手とそれだけの数、身体を重ねてきたというコトで。
チャラい見た目に、お化け並みのコミュニケーション能力を持つ網野なら、まぁ、困ったことなどないだろう……。
固まった俺に、網野の顔は、ますます歪む。
「鞍崎さんに気持ちよくなってもらいたくて、…もう一回、シたいって思って欲しくて……。でも、鞍崎さんをモヤモヤさせんのも嫌だったんで……なかなか手ぇ出せなくて」
尻窄みの声を放った網野は、ちらっと俺の顔色を窺うような視線を投げ、再びベッドへと顔を沈めた。
「だって、絶対、モヤッとしてますよね? 過去のどうでもいいヤツらに、要らぬ嫉妬してますよね?」
ヤツら…って。
やっぱ、めっちゃ複数形かよ……。
わかってたけど。
わかっていても、モヤモヤするもんは仕方ない。
それに。
「どうでもいいって……」
“過去のどうでもいいヤツら”…、それにいつか俺も含まれるのか?
そう考えると、居たたまれなかった。
ぼそりと放った俺の声に、ベッドに顔を沈めたまま、網野が吠えた。
「だって、どうでもいいっすもんっ」
言い放った網野は、情に訴えるかのように声を荒らげる。
「好きな相手じゃないっすもんっ。オレ、本気で好きになったの鞍崎さんだけっすからっ」
乗せっぱなしになっている俺の手に、甘えるように、ぐりぐりと頭を擦 りつけてくる。
俺は一応、どうでもいいヤツ…ではないようだ。
そう思うと、少しだけ心が凪いだ。
嫉妬心が、ぷすぷすと煙をあげて鎮火されていく。
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